BtoB受発注EC化は30%どまり、業界全体でデジタル化を - FAXや電話対応に課題
目次を閉じる
まだ残る押印出社やFAX出社
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として、テレワーク(リモートワーク)活用の在宅勤務が一気に広まった日本。ところが、日本生産性本部の調査によると、5月に3割以上あったテレワーク実施率はその後低下し、10月には2割程度まで下がりました。
デジタルトランスフォーメーション(DX)が話題になり、テレワークへの追い風が吹いているにもかかわらず、オフィス勤務を続けている人が多い状況です。電話対応や書類の確認、ファクシミリ(FAX)送受信、押印のためだけに出社を強いられる環境も、少なくありません。
とはいえ、業務のICT化は着実に進んでます。たとえば、社会保険の電子申請が義務化され、電子帳簿保存法の改正にともない経費精算も電子化されます。政府もデジタル化にやっと本腰を入れたようなので、その勢いは増す一方です。
押印出社やFAX出社など、テレワークの足かせになっている業務を早急に洗い出し、いつでもDXの波に乗れるよう備えましょう。
電話やFAXに頼る受注業務
テレワークへ移行したくてもできない、という企業の多くは、他社からの受注を電話やFAXに頼っている割合が高いようです。BtoB受発注システムを手がけているCO-NECTの調査レポートで、現状を確認します。
テレワークしづらい要因は?
CO-NECTは、受注業務を行っている企業に対するアンケートで、テレワークの導入状況を調べました。その結果、テレワークを「全社導入している」企業は15%にとどまったものの、「一部の部署・社員のみ導入している」という企業は40%ありました。ただし、「導入していない」と答えた企業は45%に上ります。
テレワークを導入しづらい要因としては、「製造・物流など業務内容がテレワークに適していない」という回答が58%で最多となりました。現場で人の実行する作業をなくせない企業では、導入が困難なのは当然です。
働く環境の整備遅れを指摘する、「テレワーク勤務時の業務フローや社内規定が整備されていない」(47%)や「PCや携帯電話、インターネット環境など環境面の整備」(32%)といった回答も多くありました。こちらは、導入に向けた準備や予算確保により、徐々に解消されていくはずです。
FAXやハンコのために出社
電話やFAXはテレワークの障害なのでしょうか。この調査では、37%が「FAXや電話経由での受注など、会社に行かないと注文情報が見れない」を、26%が「押印のために出社する必要がある」を選びました。電話やFAXのような人手を介さないと業務の回らない、昔ながらの通信手段に頼っている企業は多いようです。
また、CO-NECTがFAXとテレワークの関係をさらに質問したところ、35%が「FAX対応の為に一部社員のテレワークが実現できない」と答えています。
BtoB受発注業務の実態は?
受発注業務がデジタル化されれば、電話やメール、FAXといった手段を使う頻度が下がり、テレワークしやすい環境になります。ただ、CO-NECTが引用した経済産業省の調査「令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる 国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)」(関連ページ)によると、日本企業のBtoB電子商取引(BtoB EC)化率は31.7%で、これからといった状態です。
BtoB受注業務の実態については、業務管理システム開発のアイルによる調査が参考になります。
受注の85%以上が「アナログ業務」
アイルは、中堅・中小企業でBtoB受注業務を担当している人を対象に調査を実施し、使われている受注手段を調べました。
上位5項目は「FAX」(28.4%)、「電話」(18.7%)、「メール」(17.8%)、「対面営業」(16.6%)、「展示会」(4.3%)で、合計85.8%を「アナログ」的な手段と分類。これに対し、「EDI/EOS」(7.8%)、「BtoB EC」(4.0%)、「ECプラットフォーム」(2.4%)の合計14.2%を「デジタル」的な手段としています。
そして、「中堅・中小企業の85%以上に、FAX・電話などに依存した『アナログ業務』が根付いている」と指摘しました。
悩みの多いFAX受注
FAX受注に着目したアイルは、FAX対応時の悩みを尋ねました。BtoB EC導入について「検討中」または「興味あり」と答えた企業からは、「転記への業務負担」(35.2%)、「読み取り間違い、誤解」(29.7%)という回答が多く寄せられています。FAXでやってしまいがちな「誤送信」(14.8%)を問題視する声も多くありました。
BtoB ECを導入すれば、FAX受注に起因する問題は解決できます。そのためか、取引先と自社とでBtoB ECの導入を「検討中」の企業は9.5%、「興味あり(情報収集中)」の企業は18.1%ありました。すでに「導入済み」の14.3%と合わせると、4割以上がデジタルシフトに向かっています。
BtoB EC導入を阻む不安
デジタルシフトの流れはありますが、BtoB EC導入を「予定なし」とする回答は58.0%と高い状況です。これら企業は、BtoB ECに対して「得意先に使ってもらえるかどうか」(43.9%)、「業界動向」(29.3%)、「人材確保」(25.0%)という不安を抱いています。
また、BtoB EC導入を「検討中」「興味あり」の企業も、「得意先に使ってもらえるかどうか」(55.2%)、「業界動向」(22.4%)、「人材確保」(20.5%)に対する懸念を示し、その点では変わりません。したがって、受発注業務のデジタル化やBtoB EC導入の推進には、こうした不安の解消が鍵となります。業界全体での取り組みが必要ともいえます。
効率向上、時間短縮につながるBtoB EC
BtoB ECに対する不安が拭えず、導入予定すらない企業が多くあります。受注業務のデジタル化が当たり前になるまでには、まだ時間がかかりそうです。
しかし、導入した企業は恩恵を受け始めています。具体的には、企業間取引のEC化で「入力作業の軽減」(32.9%)、「電話対応時間の短縮」(21.8%)というメリットもたらされました。「残業時間の削減」(6.9%)という意見もあり、効率化し、働く時間を短くする効果もあるようです。
業務効率化による時間短縮を1日当たり1人の時間に換算してもらったところ、「1-2時間程度」が53.3%でもっとも多くなり、「3-4時間程度」も18.1%ありました。「0時間(改善されなかった)」という回答は23.8%あるものの、多くの企業がBtoB EC導入で効率向上を実感していました。
受発注をデジタル化できれば、その業務で必要とされる負担が軽減されます。さらに、押印出社やFAX出社といった無駄も排除され、テレワーク実施まで容易になるでしょう。BtoB EC導入は、直接的な利益だけでなく、働き方全体に大きなメリットをもたらし、働き方改革へつながります。