電子インボイス採用のPEPPOLって?世界各国で使われる国際規格 - 2021年6月日本向け初版公開
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電子インボイスは「PEPPOL」準拠に
会計処理システムなどを手がける企業で構成された業界団体のデジタルインボイス推進協議会(EIPA:E-Invoice Promotion Association、旧・電子インボイス推進協議会)が2020年12月、国内向け電子インボイス仕様を国際規格の「PEPPOL(ペポル)」に準拠させる※と発表しました。
※出典:EIPA「日本版 Peppol 実現に向けた業務要件」(2025年11月24日閲覧)
電子インボイス推進協議会は2020年7月に発足した組織で、デジタル請求書である「電子インボイス」の標準仕様策定に取り組んでいます。この標準仕様のベースとして、欧州を中心に普及しているPEPPOLを選びました。
なぜ電子インボイスが必要?
デジタルインボイス推進協議会(旧・電子インボイス推進協議会)が結成された背景には、2019年10月に実施された消費税の税率変更と、2023年10月1日に導入された「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」があります。
消費税と適格請求書
消費税の税率は、2019年10月にそれまでの8%から10%へ引き上げられました。ただし、食料品など一部商品の税率は8%で据え置かれたため、商品によって税率が異なっています。
請求書を発行する場合、商品やサービスそれぞれにどの税率が適用されるか明記しなければなりません。そうしないと、事業活動の過程で支払った消費税と受け取った消費税を相殺する「仕入れ税額控除」処理が適切に行えないからです。こうした複数税率に対応した請求書は「適格請求書(インボイス)」と呼ばれ、消費税の会計処理で要となります。
日本では、2023年10月1日に適格請求書等保存方式、いわゆるインボイス制度が導入されました。現在は、適格請求書の発行と受領が仕入税額控除の要件となり、企業を中心に対応が求められています。
統一フォーマットで効率化を
請求書発行や会計処理でのシステム利用が進むなか、書類の仕様差異が原因でデータを適切に処理できないことがあります。インボイス制度で帳票情報がより複雑になると、フォーマットがバラバラなままでは電子化の恩恵を十分に受けられない可能性があります。
そこで、共通で使える電子インボイスの標準仕様を定めようと、デジタルインボイス推進協議会が生まれました。フォーマットが統一されれば、企業間のデータ連携がスムーズになり、経理業務の負担が軽減されるでしょう。
会計システムが標準仕様(JP PINTなど)に準拠していれば、請求書や領収書の発行、入金や支払いの処理、帳簿への記帳、確定申告に必要な書類の作成などもかなり自動化できます。
電子インボイスが当たり前になると、企業は会計処理を積極的に電子化・オンライン化・クラウド化します。また、2020年10月に改正された電子帳簿保存法の影響で、会計業務のペーパーレス化もいっそう進みました。
脱ハンコの流れもあり、行政手続きのデジタル化が一気に進展しています。電子インボイス標準仕様策定とその普及は、日本の事務処理を本格的なデジタル時代に押し上げる柱の一つといえます。
日本でも採用されるPEPPOLとは
デジタルインボイス推進協議会は、国内向けの電子インボイス標準仕様を「PEPPOL(ペポル)」ベースで開発するとしました。現在、日本におけるPeppolの窓口(Japan Peppol Authority)はデジタル庁が担っており、日本向け仕様「JP PINT」の策定・改訂も同庁が行っています。
OpenPEPPOLが管理する国際規格
PEPPOLとは、OpenPEPPOLという非営利団体が管理している、電子文書の交換を目的とした国際的な標準規格です。
元々は、EU諸国の政府調達プロセスを効率化する目的で、欧州委員会(EC)を中心として2008年にスタートしたPan-European Public Procurement On-Line(PEPPOL)プロジェクトが策定に取り組んできました。2012年9月にPEPPOLプロジェクトが仕様を完成させた後は、作業を引き継ぐ組織としてOpenPEPPOLが発足し、現在に至ります。
PEPPOLで国際取引のチャンスが広がる?
PEPPOLに対応したシステムを使うと、欧州をはじめとする参加国・地域の政府調達や企業間取引で交換する電子インボイスなどの電子文書を、オンラインでやり取りできます。
電子文書の種類は電子インボイスに限定されず、製品の認定証や仕様書なども含まれます。これらに電子署名を施して授受が可能で、政府と民間の取引だけでなく、政府間の取引、もちろん民間同士の取引もカバーします。
PEPPOLに従った文書の送受信は、Access Points(アクセスポイント)を経由して接続する「PEPPOL eDelivery Network」を使います。送信側も受信側もPEPPOL対応のシステムを使えば、世界各国の政府機関や企業とスムーズに取引できるようになり、ビジネスチャンスが広がります。
世界各国でネットワークが稼働
PEPPOLは、欧州だけでなく米国やカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、マレーシアなどにも導入が広がっています。
2025年11月時点ではOpenPeppolのメンバー国・地域は46に増加しており、世界的な普及が進んでいます。
ただしPEPPOL導入にあたっては、導入する国や地域の法律や商習慣に合わせた調整が必要です。具体的には、採用国の行政機関にPeppol Authorities(管理局)を設置し、適切な標準仕様を策定することになります。日本の場合は、デジタル庁がJapan Peppol Authorityとしてグローバル標準仕様であるPINTをベースにJP PINTを管理し、デジタルインボイス推進協議会が民間側から普及・利活用を後押しする役割を担っています。
国によって使用する電子文書やサービスの種類も異なります。たとえば、オーストラリアは電子インボイスを主軸にしていますが、フランスは電子署名認証サービス、スウェーデンは電子発注と電子カタログもPEPPOLで処理する環境を導入済みです。各国のスタンスや管理局、アクセスポイントは、OpenPEPPOLのウェブサイトで確認できます。
標準仕様策定までのスケジュール
デジタルインボイス推進協議会とデジタル庁は、PEPPOLをベースにした日本向け電子インボイス標準仕様(JP PINT)の策定・普及を段階的に進めてきました。
主なタイムラインは次のとおりです。
- 2020年7月 電子インボイス推進協議会(現・デジタルインボイス推進協議会)発足
- 2020年12月 国内向け電子インボイス仕様に「PEPPOL」採用を決定・公表
- 2021年9月 デジタル庁が発足し、Japan Peppol Authority としてOpenPeppolに加盟
- 2022年10月 Peppol BIS Standard Invoice JP PINT v1.0 を公開
- 2023年10月1日 適格請求書等保存方式(インボイス制度)開始
- 2025年5月28日 JP PINT仕様をVer.1.1.1にアップデート(Standard Invoice/Self Billing Invoice などを改訂)
この間、協議会は標準仕様の管理・運用体制の構築や、会計ソフトベンダーなどへの普及・活用に向けた働きかけを継続して行っています。企業側も、2022年以降に登場したPeppol/JP PINT対応ソフトウェアを導入することで、2023年のインボイス制度開始とその後の制度・仕様改訂に対応できるようになりました。
電子インボイスが普及すれば、請求、支払い、記帳、申告といった業務の効率化が期待できます。さまざまな処理がデジタル化・オンライン化されるため、テレワークや在宅勤務もしやすくなるはずです。さらに、PEPPOL対応ということで国際的な取引にも役立つでしょう。
電子インボイス標準仕様への対応をユーザー企業が強く意識する場面は多くありませんが、事業をするうえで間違いなく重要なキーワードになっています。今後も、デジタル庁やデジタルインボイス推進協議会からの情報発信に注目しておきましょう。