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カスタマーサクセスは「キャリアの中継基地」 SaaSビジネスを左右するキーパーソンの人材要件とは

最終更新日:(記事の情報は現在から2249日前のものです)
既存顧客をサポートする「カスタマーサクセス(CS)」。定額制のサブスクリプションモデルが増えるにつれ、注目されるようになってきました。従来の売り切り型モデルでは新規顧客の獲得が求められてきましたが、サブスクリプションモデルではカスタマーサクセスによる継続利用、もしくはアップセルなどの利用拡大が重要な指標となります。カスタマーサクセスにはどういった人材が向いているのか。求められている人物像は?カスタマーサクセスの最前線を走る4名が議論を交わしました。

SaaS型ビジネスを展開するにあたって、カスタマーサクセス(CS)の存在感が増してきました。月額などで課金するサブスクリプションモデルでは、顧客の新規獲得だけでなく、顧客の維持・継続も重要な指標となります。「獲得」に主眼を置く従来のセールスではなく、顧客が成果を得られるよう徹底的に既存顧客と向き合う役割を担う者として、カスタマーサクセスが注目されているのです。

カスタマーサクセスが重要なのはわかる。だがセールスほどノウハウが蓄積されていない−−。

SaaS支援プラットフォーム「BOXIL(ボクシル)」を運営するスマートキャンプは10月、カスタマーサクセスが抱える課題解決の糸口を探ろうと、SaaS、そしてカスタマーサクセスの最前線で活躍するメンバーを集めたイベント「Customer Success Entry」を都内で開催しました。

コーディネーターに前田ヒロ氏を迎え、HiCustomerの高橋歩氏、フリーランスでカスタマーサクセス支援を手がける岡田奈津子氏、クラウドサインのカスタマーサクセス責任者を務める岩熊勇斗氏が登壇。カスタマーサクセスに求められる人物像、カスタマーサクセスを通したキャリアビジョンについて意見を交換しました。

「継続率」がサブスクビジネスを左右する【前田ヒロ氏講演】

まずは数々のSaaS関連企業に投資を行う業界の第一人者、前田ヒロ氏が、米国のSaaS企業事例などをもとに「カスタマーサクセスが重要な理由」を紹介しました。

世界的大手IT企業が次々とサブスクへ転換

前田:米国ではいろんなブランドがサブスク(サブスクリプション)を展開していて、アドビがクラウドに転換してほぼ100%サブスクになってたりとか、マイクロソフトもクラウド事業がものすごく伸びていているし、グーグルもアップルもサブスクリプションモデルに参画しています。

なぜSaaSが伸びているかというと、やはり一番は消費者のメリットが大きいから。ユーザーはとにかく使う分だけ払えばいいんですね。さらにクラウドを通して常に最新版が提供されるので、アップデートなどでいちいちソフトウェアを買い直す必要がない。

サービス提供者側からすると、とにかく長く使ってもらおう、とにかくハッピーにいてもらおう、そういうカスタマーファーストのメンタリティに切り替わるんです。そこで重要な役割を担うのがカスタマーサクセスなんです。

継続率100%以上がベンチマーク

前田:経営指標からみると、サブスクリプションビジネスっていうのは月額ベースの売上なので、獲得コストやLTVの指標がわかりやすく出てきます。経営指標をみれば自分たちの会社が健全かどうか明確にわかります。

米国で上場しているSaaS企業の売上継続率は平均117%で、100%を超えています。たとえば180%だと、今月獲得できた1億円の売上は、来年の今頃には1億8,000万円になっているっていう状態です。要するに既存のお客さんがどんどんどんどん買ってくれているんですね、退会より早いペースで。パフォーマンスが出ているSaaS企業の特徴です。

継続率が高いとお客さんがプロダクトを愛してくれている証拠にもなりますし、成長の苦労が減ります。たとえば売上継続率が70%の会社っていうのは、1億円の売上が来年の今頃7,000万円になるんで、1億円に戻すためには新規で3,000万円の売上を足さなきゃいけないんです。

売上成長率が100%を超えると減っていく売上がないので、新しく獲得すべき売上が小さくなっていく。(1億円という)同じ規模なのに楽して経営できるという状態になっていくんです。継続率超重要です。カスタマーサクセス超重要ですね

SaaS(Software as a Servise)って「サービス」という言葉が入っていて。やはりソフトウェアだけじゃなくてサービスを提供することこそがSaaSの特徴かなと思っていて、そのサービスの一貫としてカスタマーサクセスが大きく関わっていくっていくイメージです。

カスタマーサクセス部門の成功を左右するのは?

前田:カスタマーサクセスがうまくいっている会社とうまくいっていない会社の差、一番のポイントは、他部署連携です。カスタマーサクセスが孤立して動いているのか、他部署と一緒に動いているのかが、大きく影響するんですよね。

カスタマーサクセスチームは一番お客さんに近い立場にいますし、一番お客さんと話しています。得た情報をプロダクトチームへフィードバックしてよりお客さんに満足してもらえるプロダクトに変えていったりとか、セールスやマーケへフィードバックして営業するお客さんを絞り込んでいったりとか。他部署との連携力がものすごく重要です。

カスタマーサクセスに求められる人物像とは【パネルディスカッション】

サブスクリプションモデルのSaaSでは、顧客に使い続けてもらうことこそが肝要。そのために、契約済みの顧客をフォローする「カスタマーサクセス」のニーズが高まっています。

カスタマーサクセスにはどんな人物像が求められており、またどんなチームづくりが必要なのでしょうか。前田ヒロ氏をコーディネーターに、最前線で活躍する3人のキーパーソンが議論を交わしました。

  • 高橋歩氏(以下、高橋)
    カスタマーサクセスを支援するHiCustomerで、カスタマーサクセス部門を牽引。経験5社中4社でカスタマーサクセスに関わる。

  • 岡田奈津子氏(以下、岡田)
    Kaizen Platform在籍時、高橋氏とともにカスタマーサクセスチームを立ち上げ。その後独立し、大手企業を中心にカスタマーサクセス部門の立ち上げ・支援を行っている。

  • 岩熊勇斗氏(以下、岩熊)
    弁護士ドットコムにて、電子契約サービス「クラウドサイン」の立ち上げに参画。現在はカスタマーサクセスチームのリーダーを務めている。

カスタマーサクセス部門の立ち上げに向いている人は?

左から、前田氏、高橋氏、岡田氏、岩熊氏

岩熊:立ち上げのときを改めて振り返ると、お客さんやサービスの特性、ドメインによってカスタマーサクセスが何をすればいいのかっていう答えが違うのと、セールスやマーケみたいに教科書が揃った職種ではないので、自分の頭で考え抜いてトライアンドエラーで自走できる人が大切だと思います。

岡田:いまは立ち上げてすぐで3人程度のチームを見ています。(依頼元が)大きい会社が多いこともあって、いろいろな部署からこぼれてくる「球」を拾える人、そしてそれをカスタマーサクセスの文脈で打ち返せる人が向いていると思います。何でも屋スーパーマン。「なんでもやる」のメンタルの人。

組織拡大で直面する「仕組み化」

岡田:組織を立ち上げるとき、「3人の壁」と「10人の壁」があると思ってるんですけど。3人くらいのときって、一人ひとりのカバー領域が広くて、それぞれ何をやっているのか厳密にはよくわからないけど代われって言われたら代われない。ただ励まし合ってなぜかうまくいくんですよ。

3人から雪だるま式にメンバーが増えるとき、「3人の壁」を突破するには、属人的な仕事のしかたをやめなければならない。これまで属人的にやってきた成功体験を捨てて、スピードもある意味落として、組織がスケールするために属人性をかなぐり捨てていくっていうのは大変だなと思います。

組織で機能的に推進していくときに必要になってくるのは、やっていることの「見える化」と数値化。ものすごく細かい進捗も見える化していって、いまこの人のこの案件はどこまで進んでいますっていうのが誰が見てもわかるようにしていくっていう共有ですね。

あとはいいところも悪いところもあるんですけれども、同じ役目の人がたくさんいるので、それぞれのステップで何をやるかを細かく決めてしまって、自由度をある意味持たせず「こういうふうにやるものです」って縛る勇気が必要なこともあると思います。

高橋:それをやったときって、テクニックは共有できるけどマインドは共有できないから、マインドを共有するための仕組み、たとえばそれぞれの成功体験や失敗体験を共有する場づくりを考えることが必要ですね。

岩熊:うまくいっていたことを横展開して2人目、3人目ができるようにしていくとき、属人化させないっていうのはある程度あるんですけれども、「この人だからできた」っていう部分をどう生かしていくのか。持たせる自由度と定型化のバランスも大事かなと。

高橋:その人しかできないことは属人化しているといえるから排除していくべきだけど、その人がほかの人より得意なことは属人化って呼ばずに、むしろ伸ばしながらそのスキルをチームに還元させていくことが大事だと思うんですよね。

カスタマーサクセスに向いている人は?

岡田:利他的な人。(面接では)成功体験、失敗体験を語るときの目線の置き方を見ています。成功体験を自分の手柄とする人は最終的になじまなくて、どちらかというと、うまくいったのは誰かのおかげ、チームのおかげでって考えられる人かなって思います。そして、お客さまに対して常に満点を超える101点を返し続けていく行動を取れるかどうか。これは、尊敬するカスタマーサクセスマネージャーでもあるBox Japanの西田さんの受け売りでもあるんですけど(笑)。

高橋:その視点で付け加えると、お客さまの採点基準を変えることを提案できる人。たとえばお客さまの目標を踏まえて相手の立場に立ち、どうなったら100点なのかを一緒に考えられる人がいいかなって思います。

岩熊:プレイヤーだったら「人たらしな人」じゃないですか。最終的には人。人たらしな人って、チャットでもメールでも伝わってきてしまいません?チャットでもわかります、間違いなく活躍する人って(笑)。

カスタマーサクセスのキャリア展望

前田:世の中AI化が進んでますけど、感情が関わる仕事の一つとして、カスタマーサクセスはなくならないと思っています。中長期的にはキャリアをどう見ていますか?

岡田:いま出ているカスタマーサクセスの人材要件って難しいですよね、「いるの?こんな人」って。これから求人が増えるにつれてマージとパージを繰り返すかなと思っていて、パージしていくと各役割のスペシャリストが出てくると思います。そのときには自身がスペシャリストになるのもアリかなと思います。

高橋:カスタマーサクセスはキャリアの中継基地みたいなものだと思っています。お客さんと対峙するっていうもっともコアな仕事をしながら、それまで身につけた自分の強みをベースに新たなスキルを学んでいける場だと思っていて。キャリアチェンジで営業→カスタマーサクセス→マーケティング、みたいなこともできますよね。

とにかくこのカスタマーサクセスという仕事がたくさん増えていくことが、ユーザーにとってもサービス提供者にとっても必要だと思っているので、僕はカスタマーサクセスを支援する今の立場にい続けたいと思います。

カスタマーサクセスがSaaS成功のカギを握る

カスタマーサクセスには、徹底的に顧客に寄り添うことこそが重要。求められる人物像は、岩熊氏がいう「人たらし」に集約されるのかもしれません。

社会全体でAIによる自動化が進むなか、人と人との付き合いこそが生きるカスタマーサクセスは、より重要なポジションとなっていくと考えられます。前田氏が「もっとも重要」と位置づける他部署連携、そして組織拡大にあたり属人化を脱して「仕組み化」することが、これからのカスタマーサクセスがまず直面する課題といえそうです。

SaaS型ビジネスを成功に導くカスタマーサクセス。今後さらに注目度が増しそうです。

カスタマーサクセスを支援するサービス

Arch by HiCustomer - HiCustomer株式会社

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Arch by HiCustomerは、ヘルススコア管理でいま対応すべき顧客を明確にし、CS(カスタマーサクセス)チームのパフォーマンスを向上させるカスタマーサクセス管理ツールです。

顧客の健康状態を表すヘルススコアを算出し、対応の必要な顧客をより明確にするので、CSチームのパフォーマンス向上に活用できます。退会・解約やアップセルの兆候を検知し、CS担当にいま何をすべきかを通知するので、先回りしたそのときベストな提案が可能になります。また、顧客のサービス利⽤状況・コミュニケーション履歴・売上・契約情報などの情報を時系列に沿ってデータ管理するので、過去の施策がどのように結果に結びついたかを可視化でき、属⼈的なCSチームからの脱却も期待できます。

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