新型コロナ対策企業支援へSaaSベンダー各社がテレワーク普及を後押し
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新型肺炎対策で出社控える動き
新型コロナウイルスによる感染症の拡大が経済に影響をみせはじめた。国内の感染者報告が相次ぎ、政府も具体的な対処方針を検討し始める。
企業も対応に追われている。1月末からいちはやく在宅勤務への切り替えを発表したGMOインターネットに続き、東芝、楽天、クックパッド、JT、NTTなど、多くの企業が感染拡大を防ぐための対策を公表している。柱は次の3点だ。
- テレワーク・時差出勤で「人混みを避ける」
- ミーティングはオンラインで
- 出張やイベント参加の禁止
とくに人の往来が多い都心部はそれだけ感染リスクが高いといえる。NHKは、筑波大学が行なった試算では上記の対策を組み合わせると入院患者数を64%減らせると報じた。職員の半数をテレワークにするだけで15%減少するという。
政府は以前より、働き方改革および東京オリンピック期間中の混雑緩和を目的にテレワーク、時差出勤を推奨してきたが、導入率は目標とする数字に届いていない。しかし、実施企業の8割が目的と合致する効果があったと回答しており、期待値は決して低くない。
テレワークにツール活用を、無償提供広がる
テレワークの導入に欠かせないのが各種業務ツールだ。ICT技術の発達でSaaS(クラウド型ソフトウェア)が広まり、PCやスマートフォンから打刻できる勤怠管理システム、コミュニケーションを効率化するビジネスチャット、タスクの進捗や稼働状況を管理できるツールなど、枚挙にいとまがない。ブラウザベースで利用できるWeb会議システムを商談や採用面接へ活用する企業も増えている。
こうしたサービスの提供会社が、感染拡大防止の一助にと無償提供を発表している。
チャットボットで正確な情報発信を
コロナウイルスを巡って多くの情報が出回っており、ともすると噂が一人歩きしかねない。従業員からの問い合わせ対応に追われている担当者も多い。こうした課題を、AIが適切な回答を選ぶチャットボットの仕組みを活用し解決しようとするサービスがある。
厚労省が公式LINEアカウントを開設
まずLINEは、厚生労働省の要請を受け、LINE公式アカウント「新型コロナウイルス感染症情報」を開設した。無料で登録でき、問い合わせに対して予防法や相談場所をAIが回答する。FAQデータは厚労省が提供しており随時アップデートするという。
ヘルプデスク支援「PEP」無償提供
AIアシスタント作成ツール「PEP」を運営するギブリーは、厚労省が発表したQ&Aに基づいて作成したテンプレートを、利用企業へ無償提供する。ヘルプデスク業務の負担軽減を目指す。
多言語で情報を案内する「Bebot」
ビースポークは、訪日外国人向けのAIチャットボット「Bebot」において、政府や厚労省の発表を元にした情報を提供する。成田空港、東京駅などへの導入実績があり、「Any detected case of corona virus reported at Narita Airport? (成田空港でコロナウィルスが検出されたケースはありましたか?)」といった質問があったという。対応言語は英語、繁体字、簡体字。専用URLから無料で利用できる。
Web会議で対面感染リスクを軽減
対面が基本だった商談や面接もビデオ通話サービスによるオンライン化が進んでいる。接触による感染を防ぐ一助にと、Web会議ツールを提供する各社も無償提供を発表している。
いち早く1月末より無償提供を始めたインタビューメーカーは、通常月額約4万円のWeb面接プランを無償で提供する。参加者8名までのグループ面接、セミナーも実施できる。
同サービスを運営するスタジアムによると、2月6〜8日に実施した調査ですでに半数の企業が採用活動への影響を懸念しており、対策としてオンライン面接の活用を挙げた企業が2割にのぼった。
「FACEHUB」提供のFacePeerも無償提供の申し込みを受け付けており、各社がテレワーク推進を後押ししている。
イベント・セミナーのオンライン化支援
集団感染を防ぐため、3〜4月に開催予定だったイベントが続々と中止されている。セミナー参加の自粛を呼びかける企業や、学生向けの就活フェアの中止が相次ぎ、経済活動への影響が懸念されている。
そこで、ウェブ上で行うセミナー「ウェビナー」や、動画配信サービスを活用したオンラインセミナーへ切り替える企業が出ている。
動画制作・ライブ配信事業を手がけるCandeeは、新型コロナウイルスの影響でイベントを中止または延期する主催者を対象に、ライブ配信スタジオの無償提供を始めた。技術サポートやディレクションの相談にも応じる。
イノベーションは、子会社が運営する「コクリポウェビナー」の法人向けプランを無料で利用できるようにした。初期費用および月額利用料1か月分を無料とし、機会損失防止を支援する。
管理者の負荷軽減を狙うツールも無償で
企業がテレワーク導入に尻込みする大きな理由の一つに、セキュリティの不安がある。PC端末の保護、ネットワークへの対策、従業員への教育など、項目は多岐にわたるのだが、いずれも事前の準備が欠かせない。
そこで、SaaS型VDIを提供するドコデモは、個人のPC端末からでもセキュアにアクセスできる「どこでもデスクトップ」を4月末までの予定で無償提供する。リモートワーク環境が整っていなくても最短3日で導入できるという。
BCP(事業継続計画)策定が急がれる
実は、先んじてテレワーク導入を発表した企業のほとんどがテレワークの経験を持つ。東芝や楽天はグループ会社が今年のテレワークデイズに参加。日本たばこ産業(JT)、リクルート、NTTらもテレワーク制度を持つ。
GMOインターネットは、在宅勤務体制移行を発表した報道資料の中で次のように述べている。
GMOインターネットグループでは、緊急時におけるサービスの継続・安定運営の実現を重要事項と捉え、東日本大震災(2011年)の発生以降、BCP(事業継続計画)の構築に積極的に取り組み、全パートナーによる一斉在宅勤務の訓練を毎年定期的に実施しております。これにより、セキュアな環境下で社内システムにアクセスする手段の整備および電話・インターネット・衛星回線等を介した複数の手段を用いた社内外のコミュニケーションを平常時より確立してきております。
対応の鍵となるのが緊急時の対応をまとめた「BCP(事業継続計画)」策定だ。しかし、帝国データバンクが行なった調査によると、策定済みの企業はわずか15%にとどまる。新型肺炎の収束はまだ見えない。改めて見直す機会なのではないだろうか。