電子契約できない契約書類は?できる書類との違い
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電子契約ができない契約書とは
契約書は、宅建建物取引業法の改正(2022年5月)と特定商取引法の改正(2023年6月)によって、ほぼすべてが電子化できるようになりました。
実際に国は、契約書を含めた各書類の電子化を推進しており、「DX」「ペーパーレス」を導入する企業が増えています。しかしながら、ほとんどの契約書は電子化できる一方で、電子化できない契約書が存在します。
電子契約できない契約書リスト
電子化できない契約書のリストは次のとおりです。
契約書名 | 内容 |
---|---|
事業用定期借地契約 | 事業利用を目的とした土地や建物の貸し出しで結ばれる契約。契約期間は10年以上50年未満で、期間が満了すると土地や建物は返還される。借地借家法第23条で定められている。 |
企業担保権の設定又は変更を目的とする契約 | 株式会社によって発行される社債を担保するために交わされる契約。企業担保法第3条で定められている。 |
任意後見契約書 | 認知症や障がいに備えて、任意後見人(あらかじめ本人が選んだ人物)に契約を任せることを示す契約書。任意後見契約に関する法律第3条にて定められている。 |
農地の賃貸借契約書 | 農地や採草牧草地などの貸し借りで交わされる契約書。農地法第3条で定められているが、電磁的記録を認める規定がないため電子化できない。 |
事業用定期借地契約、企業担保権の設定又は変更を目的とする契約、任意後見契約書については「公正証書」に該当します。公正証書とは個人または法人からの嘱託によって公務員が作成する書類で、紙での発行・締結が必須です。
また、ほかの契約書においても、任意で公正証書を作成したい場合、電子化はできません。
電子契約できるが、相手の承諾が必要な契約書リスト
電子契約できない契約書がある一方で、電子契約を結ぶ際は必ず相手の承諾が必要な契約書も存在します。具体的な書類名は次のとおりです。
契約書のタイプ | 契約書の例 |
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「建築業法」や「建築士法」に関する契約書 | ・建設工事の請負契約書 ・設計受託契約・工事監理受託契約の重要事項説明書 ・設計受託契約・工事監理受託契約成立後の契約等書面 |
「宅建業法」に関する契約書 | ・宅地建物の売買・交換の媒介契約書 ・宅地建物の売買・交換の代理契約書 ・宅地建物の売買・交換・賃借の際の重要事項説明書 ・地建物取引業者の交付書面 |
「貸金業法」に関する契約書 | ・貸金業法の契約締結前交付書面 ・貸金業法の生命保険契約等に係る同意前の交付書面 ・貸金業法の契約締結時交付書面 ・貸金業法の受取証書 |
その他の契約書 | ・事業者が交付する申込書面、契約書面、概要書面(改正特商法) ・下請事業者に対して交付する「給付の内容」等記載書面(下請法) ・定期建物賃貸借契約の際の説明書面(借地借家法) ・不動産特定共同事業契約書面(不動産特定共同事業法) ・投資信託契約約款(投資信託及び投資法人に関する法律) ・割賦販売法の契約等書面(割賦販売法) ・旅行契約の説明書面(旅行業法) ・労働条件通知書面(労働基準法) ・派遣労働者への就業条件明示書面(派遣法) ・金銭支払の受取証書(民法) |
たとえば、建設工事の請負契約書は、相手方の承諾を得られた場合のみ、電子契約が利用できます。印紙代が不要になったり保管の手間が減ったりするなどメリットが多いですが、承諾を得るための手間が増えるうえに、承諾が必要な書類はまだ多いため、扱う書類が該当していないか確認しておきましょう。
現在は多くの方がスマートフォンを利用しているため、相手方から書面での契約書の交付を希望されるケースは少ないと予想されますが、書面でも対応できるように注意することが大切です。
電子契約のできる契約書とは
2021年5月に成立し、同年9月に施行されたデジタル改革関連法によって、多くの場面で書面の電子化が可能になり、現在ではほぼすべての契約書での電子契約が可能です。電子契約ができる契約書の例として次のものがあげられます。
- 業務委託契約書
- 秘密保持契約書
- 発注書(発注請書)
- 売買契約書
- 請負契約書
- 雇用契約書
- 賃貸借契約書
- 代理店契約書
- 保証契約書
- サービス利用契約書
- 誓約書
- 顧問契約書
また、不動産売買・賃貸借等に関する契約書や重要事項説明書はこれまで電子化が認められていませんでした。しかし、宅地建物取引業法改正・借地借家法等が改正され、2022年5月18日以降は電子化が可能となりました。
上記の書類以外にも、「労働条件通知書面」や「派遣労働者への就業条件明示書面」など、相手方の承諾や希望を得ることで電子化が可能な書類があります。
電子契約できる契約書、できない契約書を見分けるポイント
電子契約の可否は、契約の当事者同士にパワーバランスがあるかどうかで見分けます。次のようなケースです。
- 事業者と消費者
- 元請けと下請け
- 雇用主と被雇用者
- 賃貸と貸借
たとえば、事業者と消費者の場合、事業者の立場が強く、消費者の立場は弱い傾向にあります。たとえば、投資信託で「必ず儲かると言われたから投資したのに大損した」といったトラブルがあっても、公正証書がなければ証明ができません。このようなトラブルを避けて消費者を守るために、公正証書が義務付けられています。
電子契約できない契約書がある理由
そもそも、なぜ電子契約ができない契約書があるのでしょうか。その理由として次のものがあげられます。
- 公正証書化しなければならない契約があるため
- 未然にトラブルを防ぐため
公正証書化しなければならない契約があるため
お伝えした「事業用定期借地契約」「企業担保権の設定又は変更を目的とする契約」「任意後見契約書」については、公正証書としての保存が義務化されています。
公正証書とは、法務大臣によって任命された公証人(主に公務員)によって作成される書類で、紙での作成が義務化されているのが特徴です。非常に強い証明力があり、取引と行う企業や個人の権利を守ってくれます。
たとえば、契約どおりの業務を遂行・納品したのにもかかわらず、真っ当な報酬が支払われないといったトラブルが起きたとします。その際に、公正証書の証拠力によって、裁判所を介した口座差押といった申し立てが可能です。
未然にトラブルを防ぐため
公正証書化することは、後々のトラブル防止につながります。たとえば、「事業用定期借地契約」の場合、そもそも土地や建物は取引金額が大きいため、賃料や借地権、資産区分、原状回復などさまざまなトラブルに発展する可能性があります。もし借主が破綻した場合、建物の撤去や解体はどうするのか、といった問題も起こり得るでしょう。
そういったトラブルを未然に防ぐためにも、公正証書が重要です。たとえば、貸す側が不利な状況になった場合でも、公正証書があることでスムーズに訴訟手続きができ、責任の所在を明確にできます。
電子契約ができない契約書とできる契約書の理解をしておこう
現在ではほとんどの契約書が電子化できるようになりました。しかし、事業用定期借地契約や任意後見契約書など電子化できない書類も存在し、電子契約の可否は、契約の当事者同士にパワーバランスがあるかどうかで見分けます。
なお、電子契約には電子署名法や電子帳簿保存法など、電子化するために押さえたい法律があるため、電子契約書を導入するのであればそちらも確認しましょう。