経産省がeラーニングポータル「マナビDX」開設、デジタル人材不足の打ち手となるか
DX人材不足が目立つ日本
デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性は、以前から強調されています。ただし、DXの進捗は芳しくありません。遅れの要因はいくつも考えられますが、情報処理推進機構(IPA)の「DX白書2021」(※1)によると、日本企業ではDX人材不足が目立っていました。
同様の要因は、総務省が公表した「令和3年版情報通信白書」の「企業活動におけるデジタル・トランスフォーメーションの現状と課題」(※2)でも指摘されています。
日本と米国、ドイツでそれぞれDXの課題を尋ねたところ、日本では「人材不足」を選んだ回答が53.1%もあり、ほかの課題を大きく上回る「ダントツの1位」でした。米国とドイツも人材不足を挙げる声は多いものの、米国は27.2%、ドイツは31.7%で、突出した課題ではありません。日本の人材不足が目立っています。
※1 IPA『DX白書2021』,https://www.ipa.go.jp/files/000093705.pdf
※2 総務省『企業活動におけるデジタル・トランスフォーメーションの現状と課題』,https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/n1200000.pdf
人材確保は急務
DX推進は大企業だけの問題でなく、中小企業のDXも待ったなしです。手をこまねいている余裕などないので、人材確保を急がなければなりません。
転職市場で人気高まるDX人材
IT人材紹介サービス「Geekly」を手がけるギークリー(※3)の調査によると、非IT業種の中小規模でDX人材のニーズが高まっています。
Geeklyを介して内定するエンジニアの数は増え続けていて、特に社内SEの内定数が増加しました。そして、従業員数100名前後の企業で内定数が4倍に増加するなど、大手企業以外でもDX化ニーズの上昇がみられたそうです。
また、面談者の職種に占めるエンジニアの割合は、2022年2月が64%で、前年同月の57%から増えました。こうしたことから、ギークリーは「企業のDX化やシステム開発の内製化のニーズは引き続き高くなっている」と分析しています。
※3 ギークリー『DX化のニーズが中小企業でも加速し、IT採用はさらに加熱』,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000034.000039818.html
日本は人材の確保や育成に熱心でない?
DXを必要とするのは、IT企業に限られません。しかも、DXは単なる業務のデジタル化でなく、業務プロセスや組織の構造、他社との取引などにもメスを入れる大改革です。そのため、現場を知ったうえでICTに精通した人材が鍵を握っています。社内DX人材が重要とされ、「リスキリング」が注目されるのは、こうした理由があるからです。
ところが、令和3年版情報通信白書によると、日本企業は人材の確保や育成に熱心でないようです。
「不足しているデジタル人材の確保・育成に向けて各企業がどのように取り組んでいるか」との質問に、18.5%が「特に何も行っていない」と回答しました。ちなみに、米国は1.6%、ドイツは4.6%です。これについて、総務省は「社内の現有戦力で乗り切ろうとしている傾向がうかがえる」としました。
「社内・社外研修の充実」は47.3%で高い一方(米国は41.1%、ドイツは34.9%)、「資格取得の推奨・補助」は29.9%で、米国の36.1%、ドイツの46.9%よりかなり低く、ちぐはぐな印象を受けます。「デジタル人材の新規採用」も28.1%と米国およびドイツに比べ低く、積極的ではありません。
経産省の「マナビDX」とは
こうした状況を打開する対策の1つとして、経済産業省(経産省)と情報処理推進機構(IPA)がICT技術習得の支援サイト「マナビDX(デラックス)」を開設しました。
DX学習講座を多数紹介
マナビDXは、デジタル人材の育成を推進するため、さまざまなデジタルスキルの学習手段を紹介するポータルサイトです(※4)。経産省は「デジタル人材育成プラットフォーム」と呼んでいて、DXの初歩から実践的な技術までをカバーしています。DX人材を目指す人の独学にも、DX人材を育成したい企業の社内研修にも活用できるでしょう。
具体的には、DXにつながる技術を学べる多種多様な学習講座を紹介しています。DX初心者でも、「デジタル入門/基礎講座」なら気軽に始められそう。しかも、ここで紹介されている講座はほとんどが無償です。
さらに深く、細かく学びたければ「デジタル実践講座」へ進みましょう。こちらは多くが有償講座ですが、受講料の支援が受けられるものもあります。支援対象の講座は、「受講料の支援のある講座」にまとめられています。
紹介されている講座は、「AI」「クラウド」「IoT」「セキュリティ」といった技術的なカテゴリや、「プロジェクトマネジメント」「経営戦略」「企業と法務」のようなカテゴリで絞り込めます。ここから、自分の目的に合った講座を探すとよいでしょう。
※4 経済産業省『デジタル人材育成プラットフォーム「マナビDX」を開設しました!』,https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220329002/20220329002.html
全体像は「DXリテラシー標準」で把握
さらに、DXの全体像をつかむには、マナビDXに掲載されている「DXリテラシー標準」が役立ちます。
「すべての社会人が身につけるべきデジタルスキル」を整理した内容なので、人事部門の教育担当者などは目を通しておいた方が良い資料でしょう。
コンテンツ充実拡充に期待
なお、マナビDXは現在まだα版で、掲載する講座を公募して順次増やしていくそうです。さらに、実際の環境で現場研修を希望する人と、そうした現場を提供する中小企業をマッチングさせる研修プログラムも実施する予定もあります。
今後、DXに取り組む人にとって、有益な情報源の一つになるかもしれません。