チャットボットを社内ヘルプデスクに導入するメリットと注意点
目次を閉じる
- 社内ヘルプデスクとは
- 社内ヘルプデスクの主な業務内容
- 社内ヘルプデスクの課題
- 業務の負担過多
- 人材不足とスキルの偏り
- 社内FAQが利用されない
- 社内ヘルプデスクにチャットボットを導入するメリット
- ヘルプデスクの業務効率化
- 人件費や稼働コストの削減
- 社員の利便性の向上
- 一貫性のある回答の提供
- データ蓄積と活用が可能
- 社内チャットボットの種類
- FAQ型チャットボット
- AIチャットボット
- 社内チャットボットの活用例
- バックオフィスへの問い合わせ対応
- 社内ナレッジの共有
- ワークフローの自動化
- 従業員のエンゲージメント向上
- 社内チャットボットの導入手順
- 1. 導入目的の明確化
- 2. 設置チャネルの選定
- 3. 導入・運用担当者の任命
- 4. チャットボットツールの選定
- 5. FAQやシナリオの作成
- 6. テスト運用とフィードバックの収集
- 7. 本格運用と継続的な改善
- 社内チャットボットを導入した企業の成功事例
- サッポロホールディングス株式会社
- ウエルシア薬局株式会社
- ぴあ株式会社
- 社内チャットボットを導入する際の注意点
- 自動化する問い合わせの範囲を指定
- 運用体制を整える
- 改善意識をもつ
- 社内問い合わせ業務の改善はチャットボットの設置が効果的
社内ヘルプデスクとは
社内ヘルプデスクとは、企業内で従業員が使用するIT機器やシステムに関する問い合わせやトラブルに対応する部門のことです。
社内ヘルプデスクの主な業務内容
- ITに関する問い合わせ対応
- パソコンやソフトウェアの設定・トラブルシューティング
- ネットワーク関連の問題解決
- 社内システムの操作方法の説明
- セキュリティ対策の実施
- IT機器の初期設定やメンテナンス
- マニュアル作成と指導
社内ヘルプデスクの課題
社内ヘルプデスクでは、日々従業員からさまざまな問い合わせが寄せられ、さまざまな課題を抱えています。社内ヘルプデスクの課題としては、主に次のようなことが挙げられます。
- 業務の負担過多
- 人材不足とスキルの偏り
- 社内FAQが利用されない
業務の負担過多
社内ヘルプデスクは、業務負担の大きいことが切実な課題です。新しいシステムの導入やテレワークの普及に伴い、従業員からの問い合わせの件数は増加しています。そのため、ヘルプデスクの担当者が対応しきれなくなり、問い合わせの対応時間が長引くことが問題となります。
またネットワークがつながらなくなった、といった即時対応を求められるケースもあるため、対応を後回しにもしにくいでしょう。その結果、ヘルプデスクの担当者は対応にかかりきりとなり、本来行うべきバックオフィス業務や情シス業務ができずに影響が出たり、残業時間が増えたりします。
人材不足とスキルの偏り
社内ヘルプデスクの業務は専門性が求められますが、企業によっては適切な人材を確保するのが難しいです。中小企業では専任のヘルプデスク担当者を置くことが困難で、他の業務と兼任するケースも少なくありません。その結果、十分なスキルをもたない担当者が対応することで、適切なサポートが提供できない場合があります。
また、経験のあるヘルプデスクの担当者が退職するとノウハウが失われ、新しい担当者が業務を引き継ぐのに時間がかかる問題も発生します。
社内FAQが利用されない
社内ヘルプデスクの負担を軽減してくれるはずの社内FAQが、満足に利用されないことも課題の1つです。社内FAQとは、よくある社内問い合わせを集約し、検索や参照がしやすい形で提供するナレッジベースの一種です。システムの操作や運用に関して疑問があれば、社内FAQで答えを検索してもらい、自己解決を促します。適切に管理・整理されていない場合、従業員が情報を見つけにくくなり、活用されないケースが多くなります。
本来何度も来るような簡単な質問に関しては、社内FAQを利用して解決してもらい、FAQだけで解決できないような問題は、社内ヘルプデスクが担当します。しかしFAQは存在するものの、量が膨大過ぎて答えが探しにくい、どこから検索すればいいかわからない、といったようにうまく活用できていないケースも少なくありません。
その結果従業員は、FAQを利用しなくなり、ヘルプデスクへ直接電話・メールで問い合わせた方が早いとなり、ヘルプデスクの業務負担につながります。
社内ヘルプデスクにチャットボットを導入するメリット
これらの課題を解決する方法としては、チャットボットの導入がおすすめです。チャットボット(Chatbot)とは、「チャット」と「ロボット」を組み合わせた言葉で、人と自動的に会話を行うプログラムのことです。近年は人工知能(AI)の技術も向上していることから、より高い精度での会話や回答ができるようになっています。
チャットボットを社内ヘルプデスクに導入すると、次のようなメリットがあります。
- ヘルプデスクの業務効率化
- 人件費や稼働コストの削減
- 社員の利便性の向上
- 一貫性のある回答の提供
- データ蓄積と活用が可能
ヘルプデスクの業務効率化
チャットボットは、社員の問い合わせに自動で応答します。事前に設定した回答例やナレッジベースから適切な情報を提供できるため、ヘルプデスクの担当者が手動で対応する必要がなくなります。
また、チャットボットは、問い合わせの記録や分析、レポート作成などの業務も自動化可能です。ヘルプデスク担当者の負担を軽減し業務効率化が図れるため、コア業務にも集中しやすくなるでしょう。
人件費や稼働コストの削減
チャットボットを導入すると、ヘルプデスクの代わりに問い合わせに対応ができるため、ヘルプデスクの担当者の数や時間を削減できます。そのため人件費や稼働にかかるコストを節約できることもメリットです。
また、チャットボットは24時間365日稼働できるのも特徴です。社内ヘルプデスクの対応時間外でも、代わりにチャットボットが対応してくれるため、次の日に社内ヘルプデスクが対応する分を減らし、残業時間の軽減にもつながるでしょう。
社員の利便性の向上
24時間365日稼働の恩恵を受けられるのは、社内ヘルプデスク担当者だけではありません。利用する社員側でも、利便性の向上といったメリットがあります。深夜や早朝に急な問題が発生した場合でも、社員はチャットボットを通じて迅速に情報を得られます。テレワークを導入している企業では、在宅勤務中でも迅速にサポートが受けられるため、業務のスムーズな進行につながるでしょう。
また、対応時間中だったとしても、ヘルプデスク担当者が席を外していてなかなか電話がつながらないといったケースもあるでしょう。一方、チャットボットはいつでもすぐに回答してくれるため、疑問が出ても即座に解決でき、業務がスムーズに進められます。
一貫性のある回答の提供
ヘルプデスクの担当者によって回答内容が異なることは少なくありません。チャットボットは、事前に設定したルールやデータベースにもとづいて一貫性のある回答を提供します。これにより、問い合わせを行った社員が異なる回答を得て混乱する事態が防げます。また、回答の質を維持しながら、迅速に対応できる点も大きなメリットです。
データ蓄積と活用が可能
チャットボットは、社員からの問い合わせ内容を蓄積できるため、データ分析にも活用できます。よくある質問の傾向を分析し、必要な情報をFAQとして提供することで、さらなる業務効率の向上が見込めるでしょう。
また、問い合わせの内容をもとに、社内のマニュアルやFAQを更新することで、全体的なサポート体制の強化にもつながります。
社内チャットボットの種類
社内チャットボットには、大きく分けて「FAQ型チャットボット」と「AIチャットボット」の2種類があります。
FAQ型チャットボット
FAQ型チャットボットは、あらかじめ設定された質問と回答(FAQ)にもとづいて自動応答を行うシステムです。企業のWebサイトやカスタマーサポートに導入され、ユーザーの問い合わせに対して定型的な回答を提供します。
FAQ型チャットボットの特徴
- ルールベース型チャットボット:シナリオやルールに従って応答するチャットボット
- シンプルな設計:主にキーワードマッチングや事前登録されたQ&Aにもとづく
- 即時応答:問い合わせに対し、迅速に定型文を返す
- 導入が容易:FAQのデータを用意すれば比較的簡単に構築可能
- 柔軟性が低い:事前に設定されていない質問には対応できず、複雑な会話は難しい
AIチャットボット
AIチャットボットは、機械学習や自然言語処理といった人工知能(AI)技術を活用し、ユーザーの問い合わせに対してより高度な応答を行うシステムです。FAQ型チャットボットと異なり、単なるQ&Aではなく、ユーザーの意図を理解し、会話の流れを考慮した対応が可能です。
AIチャットボットの特徴
- AIによる理解と応答:機械学習や自然言語処理を活用し、より複雑な質問にも対応
- 継続的な学習:ユーザーの質問パターンを学習し、回答精度を向上させる
- 会話の柔軟性:定型文に依存せず、適切な応答を生成する
- 導入には初期費用と時間が必要
- 業務システムとの統合:CRM(顧客管理システム)や社内データベースと連携し、問い合わせ対応を自動化
社内チャットボットの活用例
社内チャットボットは、社内ヘルプデスク以外にもさまざまなシーンで活用できます。次に、代表的な活用例を紹介します。
バックオフィスへの問い合わせ対応
経理や人事などの社内の管理業務を行うバックオフィスへの問い合わせは、給与や福利厚生、勤怠や休暇、経費精算などの内容が多いです。
このようなジャンルの問い合わせは、基本的に社内規定や手続きに沿って回答できるため、チャットボットでの対応が可能です。またチャットボットでシナリオ設定をすることで、社員の問い合わせに応じて、適切な情報やフォーム、リンクなどを提供できます。
バックオフィスの担当者は、問い合わせ対応の時間や工数を削減でき、本来の業務に集中できます。
社内ナレッジの共有
社内の情報共有においても、チャットボットは有効なツールです。社内規程やマニュアル、業務プロセスといったさまざまな情報を蓄積し、従業員が必要な情報にすぐアクセスできるようにすることで、業務のスムーズな遂行を支援します。
従業員がチャットボットに、「営業資料のテンプレートを探して」「会議室の予約方法を知りたい」といった質問を入力すると、即座に適切な回答を提示し、情報検索の手間を削減できます。
ワークフローの自動化
社内のワークフローを自動化するための手段としても、チャットボットは活用されています。出張申請や備品の発注、勤怠管理などの申請業務をチャットボットを通じて簡単に行えるようにすれば、従業員の負担を軽減し、承認プロセスを迅速化できます。
従業員のエンゲージメント向上
チャットボットは、従業員のエンゲージメント向上にも寄与します。社内イベントの告知やアンケートの実施、福利厚生の案内など、企業文化の醸成に役立つ情報をタイムリーに発信可能です。
また、新入社員の定着と戦力化のためのサポートとして、会社の基本情報や研修プログラムの案内を自動で提供することで、スムーズな業務適応を支援します。
次の記事では、社内チャットボットサービスを比較しているので、ぜひチェックしてください。
社内チャットボットの導入手順
社内チャットボットの導入を成功させるためには、次のような手順を踏むことが重要です。
1. 導入目的の明確化
最初に、社内チャットボットを導入する目的を明確にしましょう。社内の問い合わせ対応の自動化や、社員からのよくある質問への迅速な対応といった目的が考えられるでしょう。目的を明確にすることで、適切なチャットボットの選定や設計が可能となります。
2. 設置チャネルの選定
次に、社内チャットボットをどのチャネルに設置するかを決定します。社員が日常的に使用しているビジネスチャットツールや社内ポータルサイトなど、利用頻度の高いチャネルに設置することで、活用率を高めることが期待できます。
3. 導入・運用担当者の任命
チャットボットの導入から運用までをスムーズに進めるために、専任の担当者を任命しましょう。専任担当者は、チャットボットの選定からベンダーとの連絡、FAQの作成・更新、利用状況の分析まで多岐にわたる業務を担当します。明確な責任者を設けることで、導入プロセスが円滑に進行します。
4. チャットボットツールの選定
チャットボットには、多くのチャットボットツールが存在します。自社の目的や予算、AIの搭載有無や他システムとの連携機能といった必要な機能を考慮し、最適なツールを選定しましょう。可能であれば、複数のチャットボットを比較検討し、無料トライアルを活用して実際の使用感を確認することをおすすめします。
5. FAQやシナリオの作成
チャットボットが適切に回答できるよう、社員から寄せられるよくある質問とその回答をまとめたFAQを作成します。また、質問から回答までの流れをシナリオとして設計し、ユーザーがスムーズに情報を得られるよう調整します。このステップで重要なのは、関連部署との連携です。
6. テスト運用とフィードバックの収集
作成したFAQやシナリオをもとに、チャットボットのテスト運用を開始します。社員からのフィードバックを収集し、回答の精度や使い勝手を評価しましょう。このプロセスを通じて、チャットボットの性能を向上させ、本格導入に備えます。
7. 本格運用と継続的な改善
テスト運用で得たデータやフィードバックをもとに、必要な修正や調整を行い、本格的な運用を開始します。運用開始後も、定期的に利用状況を分析し、FAQの更新やシナリオの見直しを行うことで、チャットボットの効果を最大限に引き出すことにつながります。
社内チャットボットを導入した企業の成功事例
次に実際に社内チャットボットを導入し、成功した企業の事例をいくつか紹介します。社内チャットボット導入の参考にしてください。
サッポロホールディングス株式会社
ビールから清涼飲料水、食品の製造まで幅広く手がけるサッポロホールディングスでは、「働き方改革」を推進するため、業務内容を調査しました。結果社内問い合わせ対応や会議に多くの時間が割かれており、これが原因で労働生産性の低くなっていることが発覚しました。
ほかにも社内問い合わせの属人化やFAQの不便さといった多くの課題があったことから、AIチャットボットを導入。その結果、質問者がたらい回しにされることなく、AIチャットボットで迅速に回答へたどり着けるようになりました。またこのスピーディーな自己解決により、業務効率が向上し、顧客へ対応する時間が創出できるようになったそうです。
※出典:ビジネス+IT「サッポロに聞くAI導入の極意、『社内問い合わせAI』で顧客対応の時間をひねり出す」(2025年2月18日閲覧)
ウエルシア薬局株式会社
全国で幅広くドラッグストアチェーンを展開するウェルシア薬局では、膨大な店舗数や従業員数を有すため、1日平均で約250件の問い合わせが本社人事に寄せられていました。問い合わせの中には担当者違いのものも多く、取り次ぎにも時間がかかっていたそうです。
また深夜営業や24時間営業を行っている関係で、早朝や深夜の問い合わせにはスピーディーに対応できない状態でした。そこでAIチャットボットを導入したところ、導入直後から人事本部に寄せられる問い合わせ数が70%減少し、大幅な対応工数の削減に成功。
本社人事の対応時間外での利用率も高く、本社が対応していない時間帯もチャットボットが対応してくれているとわかりました。現在は質問履歴から従業員の潜在ニーズを可視化し、回答範囲の拡張を行っています。
※出典:PR TIMES「ウエルシア薬局株式会社が社内向けAI チャットボット『HiTTO』を導入」(2025年2月18日閲覧)
ぴあ株式会社
音楽・スポーツ・演劇・映画といった各種チケットの販売を中心に展開するぴあでは、もともと社内からの電話問い合わせが多くありました。しかしほとんどの問い合わせは特定の場所を見ればわかるものでした。
同社ではコロナ禍に入って在宅勤務が導入され、さらに問い合わせの増える時期と重なったことで、AIチャットボットを導入。自宅からVPNをどう接続するかといった、在宅勤務に関連した問い合わせが多発したものの、チャットボットの活用で直接の問い合わせ急増を防ぎ、混乱を最小限に抑えられたそうです。
またAIチャットボットでは、従業員の質問内容が確認できるため、これまでわからなかった従業員の疑問の可視化にも成功しました。現在はチャットボットで確認してから、問い合わせを行う従業員が多くなり、チャットボットを使う社内文化が醸成されているそうです。
※出典:HiTTO「チャットボット導入で、問い合わせの量・質ともに大きな変化 運用の成果が認められ、社内表彰制度で特別賞を受賞」(2025年2月18日閲覧)
社内チャットボットを導入する際の注意点
社内チャットボットを導入する際は、ある程度の事前準備が必要になります。そこで最後に、チャットボットを導入する際の注意点について紹介します。
自動化する問い合わせの範囲を指定
社内チャットボットだけですべての社内問い合わせには対応できないため、どこまで対応させるか範囲を決めます。チャットボットが得意とするのは、答えまでの道筋が決まっているものや、膨大なデータから答えを導き出すもの、決まったルールに沿う回答です。
逆に専門的な言葉や日常的でない言葉、例外的な要求は苦手としているため、有人対応に切り替える仕組みが重要です。
たとえば、システム操作に関する社員からのよくある質問や、接客対応を行う部門でよく扱われる商品・サービスに関する知識といったものから始めます。データを整備し、導入前に検証を行って回答精度を高めましょう。
運用体制を整える
社内チャットボットの導入時はもちろん、運用開始後においても運用体制を整えることが重要です。チャットボットは自動化や効率化に貢献しますが、運用して終わりではなく、チャットボットの性能や品質を維持するために、定期的なメンテナンスや更新が必要です。
さらに社内チャットボットが対応できない問い合わせに対しては、有人対応が必要であるため、どのように対応の切り替えを行うか、だれが担当するかなども決めます。チャットボットの運用に関する役割や責任を明確にし、運用ルールを定めましょう。
改善意識をもつ
社内チャットボットはサービスを導入したらそれで終わりではありません。チャットボットは、常に改善しながら運用するツールです。チャットボットの利用状況やフィードバックを分析し、チャットボットの問題点や改善点を発見し、より効果的に運用できるよう導きましょう。
チャットボットの回答や情報、ナレッジベースを改善することで、チャットボットのユーザビリティや満足度の向上につながります。
社内問い合わせ業務の改善はチャットボットの設置が効果的
社内チャットボットを導入することは、社内ヘルプデスクの業務効率化やコスト削減、情報共有など、業務改善に寄与します。
社内チャットボットを導入する際は、課題・目標の明確化や運用体制の整備を行い、改善意識をもって取り組む必要があります。一方でチャットボットツールは多くあり、機能や特徴がさまざまです。
自社の課題や運用形態に合うチャットボットを比較検討し、選びましょう。
