人事と労務の違いとは?業務内容・役割・やりがい・課題
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人事と労務の違いとは
人事と労務は似ているように感じる方がいるかもしれませんが、そもそも担っている業務が違います。近年は、人事部が労務の役割を担うことも多く、違いがあいまいになりました。
人事は人材採用、人材育成、人材評価など、従業員と直接かかわる業務を行います。一方で、労務は給与計算や社会保険料の手続き、福利厚生の管理など、従業員が入社してから退職するまでの一連の業務を担います。簡単に表すと次のとおりです。
- 人事の仕事内容:「社員個人」を対象にした業務
- 労務の仕事内容:「会社全体」を対象にした業務
人事と労務の仕事内容と役割の違いや、各業務のやりがい、課題といった点をさらに詳しく解説していきます。
人事の役割
人事部は、経営資源である「ヒト・モノ・カネ・情報」のうち、「ヒト」を扱う役割があります。そのため、人事部は「ヒト」を最大限に有効活用するための部署となります。
人事部は、社員の力が最大限発揮できる部署に配属を行い、結果として会社の利益につなげなければいけません。
労務の役割
労務も経営資源の中で、「ヒト」を扱う役割があります。労務担当者は従業員のサポートの立場であるため、企業活動を円滑にする目的があります。
労務担当者は、働きやすい職場環境作り、社員のモチベーションや労働生産効率を高めることで企業の業績につなげる役割を果たさなければいけません。
人事労務の業務内容
人事と労務の仕事内容を説明します。具体的な業務をイメージして、両者の違いを明確にしましょう。
人事の業務内容
人事の業務内容は主に次の4つです。
業務内容 | 詳細 |
---|---|
人材採用 | 新卒・中途採用などの年間の採用計画を作成/経営計画に沿って必要な人員を確保 |
人材育成・能力開発 | 社員のレベルに合わせた研修の実施 |
人材評価・処遇 | 人事評価基準の作成/賞与の基準作成 |
人事制度の立案 | 人事制度の作成とブラッシュアップ・運用 |
労務の業務内容
労務の仕事内容について説明します。主に、次の6つが業務内容として挙げられます。
厚生労働省が発表した令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況によると、令和2年度における「総合労働相談件数」は129万782件であり、13年連続100万件を超えました。このように労務管理は、近年トラブルが増加していることからも特に重要な役割となります。
業務内容 | 詳細 |
---|---|
勤怠管理・給与計算 | 社員の勤怠管理・給与計算 |
社会保険料の手続き | 従業員の雇用や退職、扶養家族の増減によって発生する健康保険・厚生年金・労災・雇用保険などの手続き |
入社・退職の手続き | 入社時の雇用保険、健康保険・厚生年金の資格取得手続き、雇用契約書の作成、雇入時健康診断実施の管理、給与振込口座の登録、通勤経路の確認、法定三帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿)/退職時の雇用保険・健康保険・厚生年金の資格喪失手続き、退職金の計算 |
労務トラブルの対応 | 労働者に関するトラブルの対応 |
就業規則といった社内規程の作成 | 法律にのっとった就業規則の作成 |
従業員の健康管理 | 健康診断への対応と福利厚生に関する手続き |
労務とは何かさらに詳しく知りたい方は、次の記事で労務管理に関する基礎知識を紹介しているのでご覧ください。
人事労務の課題
人事と労務の業務内容について説明してきました。どちらも「ヒト」に関する仕事であると理解できたのではないでしょうか。
人事や労務の仕事は社外関係より社内に関する業務が多く、どのような課題があるのか理解しにくい方もいるでしょう。そこで、人事労務に関する課題や起こりがちな問題について説明します。
働き方の多様化への対応
主に労務の仕事における課題となりますが、現在は働き方が多様化しており、その対応が課題として挙げられます。
少子高齢化の影響もあり、終身雇用といった日本従来の働き方が難しくなりました。また、2020年にはリモートワークが推奨され、今までとは働き方が大きく変わる年になりました。
多様化する働き方に応じて、性別・年齢に関わらず、それぞれのライフステージに応じて柔軟に働ける環境を整えることが求められます。
労務管理も人事が行っている
人事と労務は異なる仕事と役割をもちますが、「人事労務管理」と呼ばれることもあり中小企業の多くは人事担当が労務や総務の仕事を兼任しています。そのため、人事と労務の仕事を兼任することによる、業務の線引があいまいになるといった課題が出てきました。
明確な線引きがないまま仕事をすると、本来の業務の目的や役割が見えづらくなる恐れがあります。人数の関係で部署を分けられない場合は、労務管理システムや人事評価システムなどのクラウドサービスの導入を検討してみましょう。
人事労務のやりがい
人事労務の業務は、「ヒト」に直接関われるからこそのやりがいがあります。実際に人事労務の担当者は、どのような点にやりがいを感じているのでしょうか。
会社の成長に貢献
人事労務の仕事は、人員不足の解消や優秀な人材の確保、キャリア形成やモチベーションに関わる人員配置など、「ヒト」の側面から企業の課題を解決して会社の成長に貢献しています。
企業において重要な「ヒト」を扱えるのは人事労務であり、その経営資源を有効活用できることにやりがいを感じる方が多いようです。
働きやすい職場を実現
人事労務が、保険や福利厚生面の手続き、給与計算といった仕事をすることで、社員が業務以外のことを気にすることなく、安心して仕事を行えます。
社内の環境を整備することで、会社において必要不可欠な存在になります。企業全体の労働環境を支えて、より良い会社づくりに関われていることにやりがいを感じているようです。
人事労務担当者に向いている人の特徴
人事と労務の担当者に向いている人の特徴を紹介します。
人事に向いている人の特徴
人事はコミュニケーション力の高いタイプが向いています。多くの人と関わる機会が多いため、知識だけでなく明るさや話しやすさが重要です。また、採用活動でも面接を行うため、応募者に好印象を与えるような人物であることが望ましいでしょう。
面接は企業の顔して応募者に見られ、印象が悪い場合はそのまま企業の評価になる可能性もあります。もちろんスキルも必要ですが、人間性も重視されやすい職種であると言えます。
労務に向いている人の特徴
労務は地道に仕事をこなしていく持続力や集中力のある人材が向いています。決められた期限内に多くの量をこなす給与計算は、計算の正確さと業務の手際のよさが求められます。計算のような細かい作業を的確にこなしていく事務処理能力が重要です。
さらに、労働基準法・派遣法など労務に関する法律知識も必要です。法改正などにも素早く対応できるように、日頃から知識のアップデートを怠らない人も労務向きだと言えます。
人事労務担当者が勉強すべきこと
人事労務担当者は、社内の給与や就業規則に関わる仕事であるため、ある程度の専門知識やスキルが求められます。
一般的に人事労務の仕事に必要といわれる知識やスキルを説明します。また、人事労務担当者が勉強するのにおすすめな本も合わせてご確認ください。
法律や制度の知識
労務の仕事では、幅広い知識が求められます。社会保険の手続き、雇用保険の手続きなど、法律や制度に触れる機会が多いです。入社や退職の際には、労働保険、雇用保険、社会保険といった手続きが必要となり、必要最低限な知識は得ておきましょう。
また、社員からの労務の相談も労働基準法に基づき説明を行う必要があるため、労働環境整備のためにも法律や制度の知識は必要です。
PCスキル
人事では基本的なPCスキルが必須です。採用や社員の管理、分析などデータやスケジュールの管理をPCで行うため、WordやExcel、PowerPointといった基礎知識を身につけましょう。
プログラムといった専門的な知識を使うことはあまりないため、研修用資料や会社説明会、採用管理のために必要な知識のみ勉強しましょう。
能力開発の知識
人事の仕事は、会社の各部署が担っている仕事や、会社の方向性に合った人材配置を考える任務があります。人事は社員の勤務状況や能力を的確に把握することが必要です。そのため、キャリアコンサルタントなど社員の能力開発を提案できる資格などがあれば、強みとなります。
ただし、キャリアコンサルタントに合格するためには、30~40万の費用がかかるため、個人で取得するにはハードルが高い資格です。資格を取得しなくても、キャリアコンサルタントの本を読むだけでもかなり役立つ知識が身につきます。未経験で人事部に配属された人の知識を得る方法としても活用できます。
資格の取得でスキルアップ
労務の仕事に直結する資格に社会保険労務士があります。労務の必須知識である、労務関係の知識を理解し取得すれば労務の専門家として社内外にアピールできます。
しかし、合格率は10%ほどしかなく、長時間の試験勉強が必要です。労務で実務経験を積みながらの勉強は大変ですが、取得できればキャリアップも目指せる価値ある資格だと言えます。挑戦する価値があるので、取得を目指してみるのもおすすめです。
人事労務担当者におすすめの本
人事担当者におすすめの本は次のとおりです。
- 『採用基準』著:伊賀 泰代
- 『クリエイティブ人事 個人を伸ばす、チームを活かす』 著:曽山 哲人、金井 壽宏
- 『ビジョナリー・カンパニー2 - 飛躍の法則』著:ジム・コリンズ
- 『人事担当者のための赤本+青本』著:労務行政研究所
労務担当者におすすめな本は次のとおりです。
- 『図解 いちばんやさしく丁寧に書いた総務・労務・経理の本 '21~'22年版』著:片岡宏将、吉崎英利
- 『「人事・労務」の実務がまるごとわかる本』著:望月建吾、水野浩志、堀下和紀、岩本浩一、杉山晃浩
- 『改訂最新知りたいことがパッとわかる社会保険と労働保険の届け出・手続きができる本』著:吉田秀子
- 『令和3年6月現在/オール図解でスッキリわかる 社会保険・労働保険の事務手続』著:五十嵐芳樹
- 『賃金・給与制度の教科書』著:高原暢恭
- 『2021年版 まるわかり給与計算の手続きと基本 (まるわかりシリーズ) 』著:竹内早苗
- 『労政時報』著:一般財団法人労務行政研究所
他にも人事と労務について勉強するための本は数多くあります。知識や理解が足りていないと感じた分野を、しっかりと勉強し人事労務管理に活かしてください。
人事労務管理の効率化に対応するツール
人事労務管理は会社を支えるバックオフィス業務であり、地味だけれど無くてはならないものです。ルーティン業務が多いからこそ、人事労務管理の効率化は大きな威力を発揮します。効率化することで、会社の問題点や改善点にも気づきやすくなります。
人事労務管理を効率化するためには、ツールの活用がおすすめです。近年は、コストを抑えて導入できるクラウド型の人事向けサービスが多く登場しています。労務や勤怠管理、採用、教育研修など業務ごとに取り入れられるほか、各サービスの連携も盛んでデータ登録負荷の軽減が期待できます。
ツールを上手に活用して、効率的な人事労務管理に取り組みましょう。
人事と労務の違いのまとめ
人事と労務は、会社の経営資源である「ヒト・モノ・カネ・情報」の「ヒト」を扱う業務です。人事は、人材採用、人材育成、人材評価など、従業員や応募者と直接かかわる業務、労務は、給与計算、社会保険の手続き、福利厚生の管理など、従業員が入社してから退職するまでの一連の業務を担います。
人事労務は、企業の財産である「ヒト」に関わる仕事であるため、企業の成長を支える重要な役割を果たしています。
働き方改革が進み、テレワークの勤務も増加しています。さまざまな企業が新しい働き方を探している中、人事労務の仕事はますます重要視されていくでしょう。大変な業務ですが、やりがいを求めるならば、挑戦しがいのある業務だと言えるでしょう。
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