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プロスペクト理論とは?わかりやすい例で解説 - マーケティングにも応用

最終更新日:(記事の情報は現在から148日前のものです)
プロスペクト理論とは、人の損失回避性を示した行動経済学の理論で、マーケティング分野で幅広く利用されています。この記事では、プロスペクト理論の意味と概要、特徴、具体例についてわかりやすく解説します。ビジネスの応用事例も紹介するので、自社の活動にプロスペクト理論を取り入れてみてください。

プロスペクト理論とは

プロスペクト理論(Prospect Theory)とは、人の「損失回避性」を示した行動経済学の理論です。人は損失に対して過剰に評価する傾向にあり、現実の損得と心理的な損得とが一致しないという認知バイアスついて表しています。

プロスペクト理論は、1979年に心理学者であるダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーにより提唱されました。カーネマンは2002年、ノーベル経済学賞を受賞しています。

プロスペクト理論は、従来の経済学における意思決定モデルである「期待効用理論」では説明できない、人間の不合理な意思決定を説明するために構築されました。

プロスペクト理論と期待効用理論との違い

期待効用理論は、経済学および意思決定理論において広く用いられるモデルで、個人が不確実な状況下でどのように選択を行うかを説明するものです。期待効用理論では、人は与えられた選択肢の中から最大の期待効用を持つ選択肢を選ぶと仮定しています。

期待効用理論は、人は常に合理的に判断するという前提にもとづいています。しかし、実際の人間の行動はこの前提に従わないことが多く、非合理的な選択をすることが少なくありません。

これに対して、プロスペクト理論は、実際の人間の行動をより現実的に捉えるために開発されました。プロスペクト理論は、参照点依存性損失回避といった心理的要因を考慮することで、期待効用理論の限界を補完しています。

フレーミング効果とは

同じくカーネマンとトベルスキーが提示した認知バイアスに「フレーミング効果」があります。

フレーミング効果(Framing Effect)とは、情報の提示の仕方によって人の意思決定や判断が変わる現象を指します。これは、心理学や行動経済学の分野で広く研究されており、広告やマーケティング、日常のコミュニケーションにおいてもよく見られる現象です。

たとえば、医療分野でのフレーミング効果の例を考えてみましょう。ある治療法の成功率が「90%の患者が助かる」と言われるのと、「10%の患者が死亡する」と言われるのでは、受け取る印象が大きく異なります。

成功率90%というポジティブなフレーミングは、その治療法に対する信頼感を高める一方、死亡率10%というネガティブなフレーミングは、不安感や恐怖心を引き起こす可能性が高いです。これは、プロスペクト理論の損失回避のバイアスと密接に関わっています。

プロスペクト理論の二大要素

プロスペクト理論は、「価値関数」と「確率加重関数」の二大要素で構成されています。

価値関数

価値関数は、横軸に損失や利益の程度を、縦軸にその価値の大きさを設定し、グラフ化したものです。このグラフには特定の「参照点(現在の状況や期待値)」が設けられ、人が利益や損失を評価する際の基準点として機能します。

価値関数の形状は、損失側で急勾配になり、利益側では緩やかなカーブを描きます。これは、同じ金額の利益と損失があった場合、損失の方が心理的に大きく感じられるという「損失回避」を示すものです。

確率荷重関数

確率荷重関数は、人が確率をどのように認識し、評価するかを示すものです。人は実際の確率をそのまま受け取るのではなく、心理的に重み付けを行います。たとえば、宝くじの当選確率が非常に低いことを知っていても、多くの人が宝くじを購入するのは、この低い確率を過大評価しているからです。

実際の確率と心理的に感じる確率は一致しないことが多く、とくに小さい確率や大きい確率に対して過大評価や過小評価を行う傾向があります。確率加重関数のグラフはS字型をしており、0.35付近を境にして、これより小さい確率は過大評価され、大きい確率は過小評価されます。この曲線は、確率の評価が直感に依存していることを示すものです。

プロスペクト理論の3つの心理的特徴

プロスペクト理論には、次の3つの心理的特徴があります。

  • 損失回避性
  • 参照点依存性
  • 感応度逓減性

損失回避性

損失回避性とは、人が利益を得るよりも損失を避けることに強い動機を持つ傾向のことです。同じ金額の利益と損失がある場合、損失の方が精神的な影響が大きく感じられるため、損失を避ける行動が優先される現象です。

損失回避性の例

ある企業で、年末ボーナスが2つの選択肢で提示されました。

  • A:確実に10万円のボーナスを受け取る
  • B:50%の確率で50万円のボーナスを受け取るが、50%の確率でボーナスがゼロになる

多くの人は、Aの確実な10万円のボーナスを選ぶでしょう。期待効用理論で考えれば、Bの期待値は25万円となりAよりも大きくなりますが、ボーナスがゼロになる損失リスクが心理的に大きな影響を及ぼすからです。

損失回避性は日常のさまざまな意思決定に影響を与えます。たとえば、投資の際にリスクの高い商品を避け、安定した利益をもたらす商品を選ぶ傾向が見られることも、損失回避性によるものです。

参照点依存性

参照点依存性とは、人が意思決定を行う際に、絶対的な価値ではなく、ある基準点(参照点)をもとに評価を行う傾向のことです。この参照点は、現状や期待、社会的な比較によって決まることがあります。

参照点依存性の例

スポーツ選手の年収の例を挙げてみましょう。

  • A選手は前年に1億円の年収を得ており、今年も同じ額の年収を提示された
  • B選手は昨年は5千万円の年収で、今年は8千万円を提示された

絶対的にはA選手の年収の方が高いですが、A選手は昨年と同じ額の年収のため、満足度が低いと感じます。一方、B選手は前年よりも増額されたため、満足度が高いと感じます。これが参照点依存性の例です。

参照点依存性は人の満足度や意思決定に大きな影響を与えます。たとえば、消費者が商品を購入する際、以前の価格や他社製品の価格を参照点として比較することがよくあります。また、職場での昇進やボーナスも、他の従業員の状況や自分の過去の実績を参照点にして評価されることが多いです。

感応度逓減性

感応度逓減(ていげん)性とは、利益や損失の増減に対する感情的な反応が、その増減に比例して大きくなるのではなく、徐々に鈍くなる傾向のことです。つまり、利益や損失が大きくなるにつれて、それに対する感情的な影響は次第に小さくなります。

感応度逓減性の例

たとえば、次のような場合を考えてみましょう。

  • A:5万円のボーナスが10万円に増えた
  • B:30万円のボーナスが35万円に増えた

同じ5万円の増額であるにもかかわらず、Aの方がより得をしたように感じられます。これは、人には感応度逓減性が備わっているからです。Aの得の絶対値は10万円であり、Bは35万円です。より大きな値であるBの方が、感情の動きは小さくなります。大きな利益や損失の初期段階では強い感情的反応が見られますが、その後の増減に対する感情的な感度は低下していく点がポイントです。

感応度逓減性は、日常生活や投資の意思決定などにおいて重要な役割を果たします。たとえば、株式投資において小さな利益や損失に対しては強い感情的反応を示すことが多いですが、同じ金額が増減する場合でも、すでに大きな利益を得ているときにはその感情的な反応は弱くなるでしょう。

プロスペクト理論のビジネスへの応用

プロスペクト理論は、人が必ずしも確率にもとづいた合理的な判断をするわけではないことを示すものです。この理論をビジネスに応用することで、消費者の行動を効果的に誘導できます。次に、プロスペクト理論を活用した具体的なマーケティング事例を紹介します。

期間限定割引キャンペーン

期間限定の割引キャンペーンは、期間中に得られる利益を確実に手に入れたいという顧客の心理に訴えかけます。顧客は、期間を過ぎてしまうと割引の機会を逃して損をするという恐れから、購買行動を起こしやすくなります。BtoCだけでなく、BtoBビジネスにも幅広く活用できる汎用性の高い手法です。

全額返金キャンペーン

全額返金キャンペーンは、購入後に満足できなかった場合でも損失を回避できるという安心感を提供します。企業側には返品のリスクが伴いますが、日本では返品率が比較的低いため、この手法は効果的です。顧客にとってリスクが低いため、初めての製品やサービスの購入を促進できます。

競合優位性のアピール

「顧客満足度95%」といったキャッチフレーズを使用することで、顧客に安心感を与え、申し込みを促す手法です。不用品買取サービスや健康食品などでよく見られるこの手法は、損をしたくないという顧客心理を巧みに利用しています。信頼性をフレーミング効果を利用してアピールすることで、顧客の選択を誘導します。

ポイントサービスキャンペーン

多くの企業が展開しているポイントサービスには、有効期限が設けられていることが一般的です。これにより、顧客はポイントを失効させて損をしたくないという心理が働きます。そのため、期限内に再度購入する動機付けとなり、リピーターの確保につながります。

コピーライティング

コピーライティングでは、損失やリスク回避を訴求する手法が多く見られます。たとえば、化粧品やサプリメントの広告では、「今なら無料サンプルプレゼント」といった文言がよく使用されているでしょう。これには、顧客がお試しで損をするリスクがないと感じ、即座に購買行動を促す狙いがあります。メッセージの工夫一つで顧客の行動を大きく変えられるので、非常に効果的です。

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プロスペクト理論を活かして顧客の心をつかもう

プロスペクト理論の意味と概要、特徴、具体例についてわかりやすく解説しました。プロスペクト理論やフレーミング効果は、マーケティングをはじめとするさまざまな業界のビジネスに応用されています。

プロスペクト理論を活用するには、紹介した事例を参考にするだけでなく、他社の成功事例や戦略を研究し、それを自社のマーケティング活動に反映させることが重要です。他社と同じ方法をそのまま模倣するだけでは、顧客の印象に残らない可能性があります。そのため、自社の独自性を強調しながら、競合他社の動向を常にチェックし、最適な戦略を構築することが求められます。

プロスペクト理論を効果的に活用することで、顧客の心理に訴えかけるマーケティング戦略を展開し、ビジネスの成功につなげましょう。

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