海外や世界と日本の人事評価の違いとは?トレンドや海外子会社の評価方法
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日本と世界の人事評価制度の違い
海外の人事評価制度の事例を研究し自社の制度に活かすためには制度・雇用に関する文化の違いを加味しなければなりません。海外の事例を研究するにあたって知っておきたい日本と海外の違いは次の3つです。
- 成果主義ベースの人事評価
- 新卒一括採用ではなく中途採用がメイン
- 転職市場が日本よりも活発
成果主義ベースの人事評価
一般的には海外の企業の方が、従業員があげた「成果」の測定について厳格な成果主義の傾向があります。
バブル崩壊以降、日本でも成果主義を導入する企業が増加していますが、実質的には年功序列的な風潮を大きく残した企業が数多く存在します。年功序列の風潮が強い企業が、いきなり海外式の本格的な成果主義を導入しようとすれば企業風土と合わない可能性も考えられます。
成果主義をベースにすることが必ずしも正しいわけではないので、自社に取り入れられる範囲で海外の成果主義的な要素について研究するべきです。
新卒一括採用ではなく中途採用がメイン
日本では新卒一括採用が主流ですが、実は世界的に見るとこのような事例は稀です。海外の場合、インターンシップで実力を見極めてから中途採用のような形で採用するのが一般的なので、新卒中心の組織に海外の人事評価制度をそのまま適用しようとすると失敗する場合も多いです。
特に日本の新卒は、入社してからビジネススキルを学ぶことになるため、いきなり成果を評価しようとするのは酷で、職能等級制度の方が中長期的に良い結果になることも考えられます。
中途採用をベースにしている会社はそれほど気にする必要はありませんが、新卒採用をベースにしている会社は初期段階の昇進・昇給をどのように決めるべきなのか、海外の事例を割り引いて考える方が良いかもしれません。
転職市場が日本よりも活発
新卒一括採用が多いことにも通じますが、日本は世界と比較すると転職市場が発達しているとはいえません。海外なら人材が足りなければポジションや仕事内容、待遇などを決めて候補者を探します。しかし、日本では欲しい人材がいたとしても、なかなかその人材像にマッチした人間を探すのは困難です。
そのため、社内で育成または自社に最適化された人材を育てる視点が必要になります。
また、転職市場が発達していれば少なからず人材の評価にも転職市場での価値を踏まえた値付けが行われますが、未発達な日本では転職市場での価値を評価に加味されることは少ないです。
海外(欧米)の人事評価制度のトレンド
人事や人材、人的資源に関する業務をHR(Human Resource)と呼びます。HRに関するトレンドは日本より海外が先行しているケースが多く、先進的な日本企業も積極的に取り入れています。海外の人事評価制度の4つのトレンドについて詳しく説明します。
- リーダーと一般社員は評価基準が異なる
- 社員のランク付けをやめつつある
- HR Techを活用した科学的な人事への移行
- 「エンゲージメント」の向上が重要なテーマに
リーダーと一般社員は評価基準が異なる
日本でも一部の企業はそうですが、アメリカではリーダー層のホワイトカラーと一般社員のブルーカラーでは求められる仕事での役割や評価制度が大きくことなります。マネージャークラス以上は実務ができるのはもちろん、幅広い知識やスキル、経験を持ったうえで求められた成果をあげることが要求されます。
一方で、一般社員は適正に業務をこなすことが求められ、マネージャークラス以上のような会社への貢献は求められません。
社員のランク付けをやめつつある
一部の先進的な海外の企業ではレーティングによる人事評価をやめる「ノーレイティング」を採用しており、日本でもを採用する企業が徐々に増加しています。
人事「評価」という言葉のとおり、人事評価を行う際には誰かが評価をしなければなりません。しかし、この評価にはどうしても評価者の主観が入ってしまいます。
結果、社員が評価を受けてモチベーションを低下させてしまうくらいならば、いっそ社員の人事評価面談で行うランク付け自体をやめてしまおうとする流れが海外で徐々に広まっています。
ただし、年次の人事評価でのランク付けをやめるといっても何かしらの方法で従業員のパフォーマンスをチェックして報酬を決める作業は必要です。
HR Techを活用した科学的な人事への移行
HRの仕事にIT技術を組み合わせたHR Techが注目を集めています。
たとえばオンライン上で人事評価シートの作成・共有・集計などができる人事評価システム、さまざまな人事に関する情報をヒントにして従業員の最適な配置を決めるタレントマネジメントシステム、AIがさまざまな情報をもとに従業員のモチベーションの低下、離職の兆候を発見するシステムといったようにIT技
術を使ったさまざまな人事に役立つシステムが開発されています。
このようなHRTechの進歩によって、それまで職人の勘や洞察力によって漠然と行われていた部分も多い人事業務が、可視化されたパラメーターに基づいて再現性のある意思決定ができる科学的な業務に移行しつつあります。
「エンゲージメント」の向上が重要なテーマに
海外のHRで最も注目されている概念の1つに「エンゲージメント」という言葉があり、多くの日本企業も従業員のエンゲージメント向上に取り組もうとしています。
エンゲージメントとは組織に対する愛着心のことを指します。近年、このエンゲージメントが従業員の生産性や離職率などさまざまなパラメーターにとても重要であることがわかり、さまざまな企業がエンゲージメントの向上をテーマに人事業務を行っています。
調査手法としては、eNPS、エンゲージメントサーベイなどが有名で、調査結果をもとに企業は労働環境改善、マネージャーの教育、従業員にオーナーシップを持たせる仕組みづくりなど、さまざまなことに挑戦します。
海外で流行する「ノーレイティング」評価制度
海外の人事評価のトレンドとしてあえて社員にランク付けをしない「ノーレイティング」という制度に注目が集まっています。ノーレイティングとはどのような制度なのか具体的な事例とともに紹介します。
ノーレイティングとは
ノーレイティングとは年次の人事評価面談で社員をランク付けするだけの人事評価制度を廃止し、もう少し、フレキシブルかつ臨機応変に従業員の評価をしようとする人事評価制度のことを指します。
週に1回や月に1回のように頻繁に上司と部下のミーティングを設定して、目標設定や振り返り、フィードバックを行って都度評価し、部下の成長を促そうというのがノーレイティングの趣旨です。頻繁に面談を繰り返して評価を決定するので下される評価に納得性はありますし、部下の成長をコントロールできるなどメリットが大きい制度です。
ただし、上司側にとっては大きな負担になりえて、上司側のコーチングスキルも要求される制度なので導入のハードルは高めです。
ノーレイティングが注目される背景
海外でノーレイティングが注目を集めている背景には、ビジネス環境の変化と評価の納得性の問題があります。
ビジネス環境の変化について、IT技術の進歩によって社会や経済環境は著しく変化しており、年に1回、半年に1回の上司と部下のミーティングでは、評価の頻度が低すぎてビジネスのスピードに追い付けません。このような理由からPDCAを高速で回転させるためにノーレイティングが注目を集めています。
また、人事評価の納得性にも問題があります。従来の人事評価は一方通行であることが多く、年に数回しか面談をせずに評価を決めてしまうので、いざ評価が低かった場合は納得できず、モチベーションの低下や離職につながる可能性がありました。
面談を頻繁に行うことでフィードバック回数を増やすことにより、評価の認識のずれを防ぎ納得感を高められる点も、ノーレイティングに注目が集まっている背景の1つです。
ノーレイティングの導入事例:アドビ株式会社
急成長を遂げているアドビ株式会社でもノーレイティングを採用しています。アドビシステムズでは2012年より「チェックイン」という人事評価制度をスタート。継続的な面談を通じて、上司・部下のリレーションシップを強化、社員の成長を狙うためにさまざまな施策を行いました。
チェッインの導入によって評価に対する納得感が生まれやすくなり、従業員のモチベーション低下も防げているとのことです。
基本的には四半期に一度以上のペースで個人の成長にフォーカスした面談を行い、面談は期待、フィードバック、キャリア開発の3つのコンセプトをもとに構築され、マネージャーが部下の目標達成をサポートすることを重視しています。
同時に従来の人事評価のように指定フォームに必要項目を入力することをなくし、マネージャーに従業員の給与に関する裁量を与えようにもしました。
出典:[Adobe「Adobe’s open-source Check-in toolkit」]
外国子会社の人事評価はどのように行うべき?
日本に本社があって、海外にも外国子会社を保有している場合、日本と海外子会社の人事評価制度をどのように設計するのかは一つの重要なテーマとなりえます。外国子会社の人事評価制度について説明します。
共通制度は2割程度
転職エージェントのJAC Recruitmentが発表した、「アジア人材戦略レポート2019」によると地域に関わらず共通の人事制度を採用している企業は18%とのことです。
ただし、共通の人事制度であったとしても現実的には拠点間移動はほとんど発生しないので、国にあった制度を運用する方が良いという意見もあったとのことです。
このような理由から、人事評価制度には地域の実情に応じた一定のローカライズが必要だと考えられます。
海外子会社の人事制度を考えるうえで考慮すべきこと
ローカライズが必要ですが、福利厚生と業績には相関関係があり、海外子会社であっても福利厚生が充実させた方が生産性の高い組織が構築できる可能性が高いです。
同調査ではどのような福利厚生が業績の向上と相関関係が高いのかも調査していますが、研修の充実や社内コミュニティの構成などは効果があるとのことです。
また、社員食堂での食事提供や車両の貸与・払下げといった福利厚生はあまり業績に影響しないと考えられます。
日本企業が海外の人事評価制度から学ぶべきこと
日本企業が海外の人事評価制度から学ぶべきことは次の3つです。それぞれについて詳しく説明します。
- 人事評価に科学的な手法を導入する
- 人事における相対評価の弊害をよく考える
- ローカライズ・変化が必要なことを考慮する
人事評価に科学的な手法を導入する
IT技術の発展によりHR Techが誕生し、データをもとにした科学的な人事が実現できるようになりました。海外が先行していますが、日本国内にも多くのHR Tech系のサービスが存在し、これらの技術を活用することによりさまざまな恩恵が得られます。
書類を紙ベースで人事情報を管理している場合は、IT化によって特に業務効率アップが推進できコスト削減の効果が期待できます。その他にも次のようなメリットが挙げられます。
- 人材配置の最適化の前提となるデータを取得
- 退職しそうな人材を発見して早期に対策
- 人間が行った評価のブレをシステムが修正
効率化された科学的な人事手法の導入によって再現性の高い人事施策が可能になり、会社の安定性と継続的な成長が期待できます。
人事における「評価」の弊害をよく考える
人事評価面談が持つ弊害についても一度見直した方が良いかもしれません。1年に1回、半年に1回程度の人事面談で働きぶりを評価されただけでは、低かった場合、多くの人が納得するのは難しいと考えられます。
加えて、相対評価するのであれば、さらに自己評価と会社評価に大きな乖離が発生すると考えられます。
そして、このような評価のギャップは従業員のモチベーションの低下を引き起こし、組織力を低下させる原因にもなりかねません。
評価の仕方について納得性を高めるために上司・部下の面談回数を増やしたり、評価の仕方について評価者にある程度自由を持たせたり、目先を変えてキャリアを含めてトータルサポートをしたりといった工夫が必要です。
ローカライズ・変化が必要なことを考慮する
ローカライズ、変化は人事評価において必要です。海外も含めてさまざまな人事評価制度が提唱されていますが、人事評価制度に絶対的な正解はなく、会社の業界、業種、事業の規模、社風などさまざまな要因によって最適な人事評価制度は異なるはずです。
そういった意味で、ただ海外の事例をそのまま参考にするのではなく、日本の会社にローカライズして考えることが大切だと考えられます。
海外の先進的な企業は人事評価制度を変更することを恐れません。人事評価制度を変更すると、昇給・昇進のルールが変わるため、既存の評価制度の方が高評価を得られる従業員から反発が起きるかもしれません。
ただし、時代と経営環境の変化とともに人事評価制度も変わらざるを得ないので、変化を受け入れる必要があります。
海外との違いを踏まえて最新事例を人事評価制度に活用しよう
海外の人事評価制度のトレンドや日本との違いなどを説明してきましたが、海外が日本と異質というのではなく、先進的な日本企業も海外の事例企業のようにさまざまな人事評価制度の改善に取り組んでいます。
日本国内にもさまざまなHRサービスが立ち上がっていますし、挑戦する意思さえあればどのような規模の企業であっても人事制度の刷新に取り組むことは可能です。
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