電子署名法とは?概要や法的根拠になる理由をわかりやすく解説
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- 電子署名法とは?
- 電子署名法施行の背景と目的
- 電子署名法に関連する法律や制度
- 電子署名法の重要なポイントをわかりやすく解説
- 電子署名法の条文全体概要
- 電子署名の定義を行う第二条
- 電子署名の法的根拠を支える第三条
- 一般的な企業では第四条以降は大きな影響がない
- 企業間の契約における電子署名の利用方法
- 電子署名を用意し当事者署名型電子契約サービスを利用する
- 電子署名は用意せず立会人型電子契約サービスを利用する
- PDFファイルに電子署名を付与できるソフトウェアを利用する
- 電子署名を使った電子契約のメリット
- 本人性や真正性の法的根拠になる
- 契約業務が効率化できる
- 契約業務のコストを削減できる
- 電子署名を使った電子契約のデメリット
- 利用できる契約に制限がある
- 導入初期は取引先との調整が必要になる
- システム導入に手間やコストがかかる
- 電子署名法を正しく理解し上手に活用しよう
電子署名法とは?
電子署名法とは、正式名称を「電子署名及び認証業務に関する法律」といいます。電子データで作成された文書に付与される電子署名の定義や要件などについて定めた、2001年施行の法律です。電子署名が施された文書の法的な効力や、電子署名を認証する機関についても定められています。
たとえば、契約業務ではもともと押印処理が担っていた真正な成立の推定を支える根拠となっており、電子署名法のおかげで電子署名でも押印同様に真正な成立の推定が可能になっています。
電子署名法施行の背景と目的
電子署名法の目的は電子署名の真正性担保や認定制度、そのほかの必要な事項を定めることです。これらの目的を達成することで国民が円滑に電子署名を利用できるようにして、ネットワークを利用した社会経済活動を支えることを目指しています。
インターネット上での取引は便利な半面、契約の相手方と対面できず騙されないか、契約の情報は改ざんされていないかなど不安も大きいです。その不安を解消するため、電子署名や認証業務が利用されます。電子署名や認証が行われれば相手が正しい取引先であるとわかり、安心して取引できるからです。
しかし、この電子署名や認証業務にもまだ問題がありました。それは、法的な取り扱いが明確ではないことでした。電子署名や認証業務の法的な扱いが不明確だと、万が一裁判になってもどのような判断がなされるか不安なため、電子署名や認証業務が普及しません。
このような事態を解決し、電子署名や認証業務を利用した社会経済活動を推進するために電子署名法は施行されました。
電子署名法に関連する法律や制度
電子署名法に関連する法律や制度は多いです。たとえば次のような法律があります。
- 契約全般に関することを定めた民法
- 文書の成立に関して定めた民事訴訟法
- 国税に関する書類の電子データ保存を認めた電子帳簿保存法
- 電子メールやFAXでの書面送付を認めるIT書面一括法
- 保管義務のある書類の電子データ保存を認めるe-文書法
- 契約書や領収書などの特定文書に関する課税を定めた印紙税法
次の記事ではここに取り上げた法律以外についても詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
電子署名法の重要なポイントをわかりやすく解説
電子署名法の重要ポイントを次に示す点に絞ってわかりやすく解説します。
- 電子署名法の条文全体概要
- 電子署名の定義を行う二条
- 電子署名の法的根拠を支える三条
- 一般的な企業では4条以降は大きな影響がない
電子署名法の条文全体概要
電子署名法は第一章から第六章、附則まで含めて47条で構成されています。
- 第一章:総則(第一条・第二条)
- 第二章:電磁的記録の真正な成立の推定(第三条)
- 第三章:特定認証業務の認定等(第四条―第十六条)
- 第四章:指定調査機関等(第十七条―第三十二条)
- 第五章:雑則(第三十三条―第四十条)
- 第六章:罰則(第四十一条―第四十七条)
- 附則
この中から電子署名を使った業務に関わりの大きい第二条と第三条について詳しく説明します。
電子署名の定義を行う第二条
電子署名法の第二条は電子署名の要件を定義しています。
(定義)
第二条この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
二当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。
2この法律において「認証業務」とは、自らが行う電子署名についてその業務を利用する者(以下「利用者」という。)その他の者の求めに応じ、当該利用者が電子署名を行ったものであることを確認するために用いられる事項が当該利用者に係るものであることを証明する業務をいう。
3この法律において「特定認証業務」とは、電子署名のうち、その方式に応じて本人だけが行うことができるものとして主務省令で定める基準に適合するものについて行われる認証業務をいう。
引用:e-Gov 法令検索「電子署名及び認証業務に関する法律:第二条」(2024年11月18日閲覧)
この条文を簡単にまとめると、次のような内容が定義されているとわかります。
- この法律において電子署名とは電子データに付与されるものである
- さらに電子署名は「電子署名の名義人が電子データの作成に関わっていると確認できる」「電子データが改変されていないことを確認できる」という2つの条件を満たす必要がある
つまり、電子署名法の第二条をまとめると、「電子署名は電子データに付与されるデータで、本人性と完全性を確認できるものでなければならない」とされています。この前提に立つことで、電子署名法の第三条が効力を発揮します。
電子署名の法的根拠を支える第三条
電子署名の法的根拠を支える条文が電子署名法の第三条です。電子署名が法的に重要な意味をもつ根拠は第三条にあるため、第三条は電子署名を扱う際には非常に重要な条文とされています。
第二章 電磁的記録の真正な成立の推定
第三条電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
引用:e-Gov 法令検索「電子署名及び認証業務に関する法律:第三条」(2024年11月18日閲覧)
第三条を簡単に要約して考えると、「本人が行ったと考えられる電子署名付きの電子契約があれば、それは契約者本人による確認が行われ、契約者本人が同意したものである」と法的に考えられます。この条文が定められたことで、電子契約でも裁判の証拠として使える前提で契約が進むため、利用者は安心して電子契約が可能です。
一般的な企業では第四条以降は大きな影響がない
一般的な企業では第四条以降は大きな影響がなく、業務に関わってくることも少ないでしょう。
電子署名の利用者に対して電子証明書を発行する機関に関しての内容が主に定められており、電子証明書発行を事業として行っていない企業には関係のない条文だからです。
認証業務を行う予定のある企業は第四条以降も確認し、法律にのっとって事業ができるよう準備しましょう。
企業間の契約における電子署名の利用方法
企業間の契約における電子署名は、次のような利用方法が一般的です。
- 電子署名を用意し当事者署名型電子契約システムを利用する
- 電子署名は用意せず立会人型電子契約システムを利用する
- PDFファイルに電子署名を付与できるソフトウェアを利用する
電子署名を用意し当事者署名型電子契約サービスを利用する
1つ目の電子署名の利用方法は、電子署名を契約者本人が用意して当事者型電子契約システムを利用することです。
電子署名を契約者本人が用意する場合は、本人が認証局への申請を行い、手数料を支払って電子契約を用意しなければならないため費用と手間がかかります。しかし、本人名義の電子署名が利用できるため、証拠能力の高い電子契約ができるとされています。
一方が当事者型電子契約を行う際は、相手方も同様の方式で電子契約をしなければならないため、双方が証拠能力の高い契約を締結できて安心して電子契約できるでしょう。
電子署名は用意せず立会人型電子契約サービスを利用する
2つ目の電子署名の利用方法は、契約者本人が電子署名を用意するのではなく、立会人型電子契約システムを利用して電子署名の付与を依頼する方法です。
電子署名を用意する手間と費用が削減できる反面、証拠能力が当事者型と比較したときにやや弱いとされています。しかし、立会人型の電子契約サービスでも問題なく電子契約ができる旨は政府より発表されているため、証拠能力についても問題はないでしょう。
電子署名を用意することは手間だと考える事業者や、相手方にも用意させる負担をかけられない事業者は、立会人型サービスを利用することを検討しましょう。
PDFファイルに電子署名を付与できるソフトウェアを利用する
契約者本人が電子署名を用意できるのであれば、電子契約システムを利用せずとも、電子署名をPDFファイルに付与できるソフトを利用し電子契約ができます。
同様に、タイムスタンプも付与できる仕組みがあれば、電子契約システムが行う業務を契約者自身がまかなえます。契約に他社を介入させたくない場合には、このような方法もあるため、自社にマッチした方法を選択しましょう。
電子署名を使った電子契約のメリット
電子署名を使った電子契約のメリットには次のようなものがあります。
- 本人性や真正性の法的根拠になる
- 契約業務が効率化できる
- 契約業務のコストを削減できる
それぞれのメリットについては次の記事で詳しく紹介しています。より多くの詳しいメリットを知りたい方は、ぜひ次の記事を参考にしてください。
本人性や真正性の法的根拠になる
電子署名を使った電子契約では、本人性や真正性の法的根拠をもって契約ができます。電子署名とタイムスタンプの技術を組み合わせることで、本人性や完全性を担保できるため、裁判でも利用できる信頼性のある証拠能力をもった契約を行えます。
紙の契約書から電子契約に移行する際に、「電子契約が信頼できない」と考える人も多いです。しかし、実際には押印処理を施された紙の契約書とほとんど同じ効果をもつ契約ができるため、安心して電子契約を行えます。
契約業務が効率化できる
契約書業務の効率化ができることも電子署名付き電子契約のメリットです。
紙の業務は作成・封入・郵送・管理とさまざまな契約業務のステップで大きな手間がかかっています。しかし、電子契約を導入することでこれらの手間を削減できます。ムダな人件費も削減できるため、紙の契約書の手間を削減したい方にとっては一石二鳥です。
契約業務のコストを削減できる
電子署名付き電子契約を利用すれば、紙の契約業務の直接的なコストも削減可能です。
紙の契約書を利用していると、次のような費用がかかります。
- 契約書作成のための印刷代やインク代
- 郵送のための封筒代や郵送費
- 契約書に添付する収入印紙
- 契約書保管スペースにかかる費用
電子契約なら契約がシステム上で行えるため、これらのコストが削減できます。
電子署名を使った電子契約のデメリット
電子署名を使った電子契約には次のようなデメリットもあります。
- 利用できる契約に制限がある
- 導入初期は取引先との調整が必要になる
- システム導入に手間やコストがかかる
それぞれのデメリットがどのようなものか、解説します。デメリットについても次の記事でより多くのデメリットについて詳細に説明しているため、ぜひ参考にしてください。
利用できる契約に制限がある
電子契約は、まだ電子化が認められていない契約もあります。たとえば、定期借地契約や特定商品取引法などの書面交付義務がある取引は、電子契約ができません。
これらの契約を行う機会が多い事業者は、電子契約は不向きのため法体制の確立を待ちましょう。電子署名法を含めて多くの法律が整備されたことで、多岐にわたる契約の電子化が可能になりました。将来的には先に挙げたような契約も電子化できる可能性があります。
導入初期は取引先との調整が必要になる
導入初期は取引先との調整が必要になるケースもあり、デメリットと感じる場合もあるでしょう。
契約業務を行うときには必ず取引先にもシステムを操作してもらわなければならないため、一方的な都合で電子契約を押し付けるわけにはいきません。よって、取引先に対する契約フローの調整が必要で、その調整が手間になる点は電子契約のデメリットと言えます。
システム導入に手間やコストがかかる
電子契約システムを導入する際には必ず手間と新規コストがかかります。
取引先に説明する手間、社内に浸透させる手間など、新しいシステムを導入する際はどうしても手間がかかります。また、電子契約システムを利用するためにはコストもかかります。少しの手間もコストもかけたくない場合は、これらがデメリットに感じられる可能性があるでしょう。
しかし、システム導入の手間は一時的なもので、今後恒久的に契約業務の手間がかからなくなると考えれば全体の手間は削減できます。また、コスト面もメリットで紹介したようなコスト削減効果とシステム利用によって増えるコストを比較して、コスト削減効果のほうが大きいのであれば、大きなデメリットではありません。
システムを導入した際の効果を正しく把握して、導入にメリットがあるのかデメリットのほうが大きいのか適切に判断してから導入を進めましょう。
電子署名法を正しく理解し上手に活用しよう
電子署名法は電子契約において利用される電子署名について定めた法律です。電子署名法があることで企業は安心して電子署名を利用した電子契約を締結できます。
電子署名法は第二条で電子署名の定義や要件を定め、第三条で法的な根拠を示しています。第四条以降は電子証明書を発行する企業向けの条文で、一般企業にはあまり関係してこないでしょう。
電子証明書を利用した電子契約には業務効率化やコスト削減などのメリットがありつつ、まだ電子契約に対応できていない契約がある、システム導入に手間や新規コストがかかるなどのデメリットもあります。
メリットとデメリットを比較してメリットが大きいと判断された場合には、電子署名を利用した安心できる電子契約システム導入を検討しましょう。