ジョブローテーション制度とは?目的やメリット・デメリット、日本と海外の事例
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- ジョブローテーション制度とは
- 人事異動との違い
- ジョブローテーションの期間
- ジョブローテーション制度の背景
- メンバーシップ型雇用が主流の日本で広まった
- ジョブローテーション制度は時代に合わなくなりつつある
- ジョブローテーションの目的
- 企業の全体像の把握
- 社員のモチベーション維持
- 部署間の連携をスムーズにする
- 幹部候補の人材育成
- ジョブローテーションの課題
- 異動のたびに教育コストがかかる
- スペシャリストの育成には向かない
- 異動後にパフォーマンスが低下する
- キャリアプランによってはモチベーションが低下する
- ジョブローテーション制度のメリット
- 企業側のメリット
- 従業員側のメリット
- ジョブローテーション制度のデメリット
- 企業側のデメリット
- 従業員側のデメリット
- ジョブローテーション制度に向いている企業
- 各業務が一連の流れで実施できる企業
- 企業文化を浸透させたい企業
- 従業員数の多いグループ企業
- ジョブローテーション制度に向かない企業
- 少人数の中小企業やスタートアップ
- 専門的スキルが必要とされる企業
- 長期的なプロジェクトを実施する企業
- 企業に合わせてジョブローテーションの導入を
- 注目の人事評価システム、サービス資料まとめ
- BOXILとは
ジョブローテーション制度とは
ジョブローテーション制度とは、社員の能力開発のために定期的に社内での異動や職種の変更を実施し、スキルや経験を習得するための人事制度のことです。
ジョブローテーションは、日本の大企業を中心に採用している制度で、企業に特化したゼネラリストを育成しやすい、企業文化を浸透させやすいといったメリットがあります。
ジョブローテーションの目的によって期間はさまざまで、ひとつの部署・職種で働く期間は半年から長くて数年と、企業の方針によって異なります。
>>人事制度とは | 経営戦略に役立つ設計・構築のポイント
>>人事評価制度とは | 目的や評価手法、策定手順 - 注意すべきポイント
人事異動との違い
ジョブローテーション制度は、社員の人材育成のために実施する中長期的な人事制度です。
一方で、人事異動は昇格・降格、解雇、配置転換といった、企業が欠員の補充や組織の活性化のために実施する企業経営上の短期的な人事、といった違いがあります。
ジョブローテーションの期間
ジョブローテーションの適切な期間は、目的によって異なります。
新入社員にどのような仕事があるのかを把握させる、一度現場を経験しておくといった新人研修のジョブローテーションであれば、数か月から半年程度、長くて1〜2年が目安です。
長期的な社内キャリアパス、幹部社員育成のためのジョブローテーションであれば、部署・職種での最低限の業務執行能力を身につけることが目的です。
そのため、ひとつの部署・職種につき、数年は仕事をするべきだと考えられます。
いずれにしても、目的と社内の人材育成状況に応じて、個別に適切な期間を設定することが望ましいでしょう。
ジョブローテーション制度の背景
ジョブローテーション制度は、主に終身雇用・年功序列をベースに組織を構築してきた日本企業の独特の人事制度だと言われています。
背景には、日本企業の新卒一括採用を中心としたメンバーシップ型雇用といった雇用方法があります。
メンバーシップ型雇用が主流の日本で広まった
従来の日本企業では、新卒で入社した企業で定年まで働く終身雇用制度が一般的でした。メンバーシップ型雇用では、実務経験やスキルのない新卒学生を、業務内容や勤務地などを限定せずに雇用します。
その後、ジョブローテーション制度によって長期的・計画的な配置転換を実施し、幹部候補となるゼネラリスト人材を育成してきました。このためメンバーシップ型雇用は、人に仕事を合わせる雇用といわれます。
ITやデジタル技術のスペシャリスト人材が企業に求められる現在は、メンバーシップ型雇用を廃止してジョブ型雇用に移行する日本企業が増加しています。
ジョブ型雇用との違い
ジョブ型雇用は職務記述書(ジョブディスクリプション)で業務内容や範囲を明確に定め、内容にもとづいて雇用契約を結ぶ仕組みです。専門性を重視し、成果に対して評価される点が特徴です。
一方、メンバーシップ型雇用は、具体的な職務を限定せずに人材を採用します。新卒一括採用や長期的な育成を前提とし、配置転換や異動を通じて幅広い経験を積ませることで、総合的な能力を育てるのが目的です。
つまり、ジョブ型雇用が職務を起点にした雇用であるのに対し、メンバーシップ型雇用は人材を起点に幅広い業務を経験させる雇用といった点で大きく異なります。
ジョブローテーション制度は時代に合わなくなりつつある
従来のジョブローテーション制度は、終身雇用を前提に社員を長期的に育成する仕組みとして、多くの日本企業で採用されてきました。
しかし、現在では終身雇用の崩壊や転職の一般化により、前提が成り立ちにくいのが現状です。実際に、制度を維持できず廃止する企業も増えており、今後さらに動きは加速することが予測されます。
転職市場の活性化に伴い、社員は自分のキャリアパスや習得したいスキルを重視し、短いスパンで転職を繰り返す傾向があります。
こうした状況では、長期間にわたって計画的に人材を育成するジョブローテーションが適さないケースも少なくありません。むしろ、現在ジョブ型雇用など新しい人材活用の仕組みを導入する企業が増えています。
平均勤続年数や業務スタイル、人材育成の方針などを踏まえ、目的に合った制度を選択することが重要です。
ジョブローテーションの目的
ジョブローテーション制度には次のような目的があります。
- 企業の全体像の把握
- 社員のモチベーション維持
- 部署間の連携をスムーズにする
- 幹部候補の人材育成
企業の全体像の把握
ジョブローテーションによりさまざまな部署を経験することで、企業の全体像が把握できるようになります。
事業の仕組みや本質的なKPIについての理解が深まり、新規事業開発やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進のための課題など、長期的な戦略が描けるようになるかもしれません。
新人育成時のジョブローテーションでは、新入社員に営業や工場などを体験してもらい、現場の現実やチームワークを学んでもらう企業も多くあります。
入社後に実務を通して企業全体を把握してもらったあとで、本人の適性と希望を考慮して正式な配属を決めていきます。
新入社員は、こうしたジョブローテーションを通して企業文化になじめることで、配属先でも現場を大切にした業務フローに従事してくれることが期待できるでしょう。
社員のモチベーション維持
ひとつの部署だけに長い年月所属していると、業務に新鮮味が感じられなくなり、社員のモチベーションが低下してしまうことがあります。
ジョブローテーションで違う部署に異動することで、新しいスキル開発や提案が可能になり、組織がフレッシュな体制になることが期待できるでしょう。
自身のモチベーションにもとづいた社員の成長は、企業にとっても成長の原動力となります。
部署間の連携をスムーズにする
部署の人材が固定されてしまうと、部署間の関係性も硬直してしまいがちです。
ジョブローテーションで部署間のコミュニケーションが取りやすくなれば、柔軟で迅速な連携が可能です。また、摩擦やトラブルが減り、経営効率が高まります。
幹部候補の人材育成
幹部候補には、ジョブローテーションでさまざまな部署を経験してもらい、企業の全体像を正確に把握してもらう必要があります。
どの部署でも高いパフォーマンスを発揮できる社員は、中間管理職として昇進していくでしょう。
また幹部候補の社員は、ジョブローテーションによる異なる部署での勤務経験により、社内外で幅広いネットワークを構築できます。
経営幹部となった際には、社内からの多くの支持に加え、ネットワークを外部企業との提携といった、企業にとっての重要なプロジェクトに生かせるかもしれません。
ジョブローテーションの課題
ジョブローテーションには、次のような課題もあります。
- 異動のたびに教育コストがかかる
- スペシャリストの育成には向かない
- 異動後にパフォーマンスが低下する
- キャリアプランによってはモチベーションが低下する
異動のたびに教育コストがかかる
ジョブローテーションでは、異動対象者の選定や配置先の検討、要員数のバランス調整、部署間での根回しなど多岐にわたる作業が必要です。
さらに異動後は新しい業務を習得する必要があり、教育や研修に追加コストと時間がかかる点が課題です。結果として、人事部門と現場双方の負担が大きくなり、効率的な運用が難しくなる場合があります。
スペシャリストの育成には向かない
ジョブローテーション制度は複数の部署を経験できる反面、ひとつの分野に腰を据えて専門性を磨くことが難しくなります。多くの知識を身につけられる分、浅いスキルにとどまってしまうため、スペシャリストの育成には不向きです。
とくに、高度な専門知識や技術が求められる職種では、ローテーションが成長の妨げとなる可能性があります。
異動後にパフォーマンスが低下する
新しい部署に移ると、業務内容や人間関係に慣れるまで時間がかかり、成果や効率が下がることがあります。
短期的には部署全体のパフォーマンスにも影響がおよびやすく、即戦力としての力を発揮しにくい点が課題です。とくに繁忙期に異動が重なると、業務の停滞や生産性の低下につながるリスクが高まります。
キャリアプランによってはモチベーションが低下する
希望していない部署へ異動させられると、自身のキャリアプランが崩れ、モチベーションの低下を招く可能性があります。
新たなプロジェクトが始まったばかりのタイミングや、多忙な時期に異動を実施してしまうと、モチベーション低下のリスクはいっそう大きくなるでしょう。
努力や成果が中断されたと感じることで不満が高まり、離職につながるケースも少なくありません。
ジョブローテーション制度のメリット
ジョブローテーション制度を導入することによるメリットは次のとおりです。
| 企業のメリット | 従業員のメリット |
|---|---|
| 部署間の連携が深まる | 会社の全体像が見える |
| 会社の都合に応じて人材配置しやすい | ゼネラリスト人材になれる |
| 幅広い業務を遂行できる社員が増える | さまざまな部署・職種を経験できる |
| 社員の適性を見極めやすい | 望んだ業務・部署に配属されるかもしれない |
| 業務の属人化を防ぐ | 具体的なキャリアパスを描ける |
企業側のメリットと従業員側のメリットに分けて説明します。
企業側のメリット
企業側がジョブローテーション制度を導入するメリットとして、部署間の連携が深まり、業務の属人化を防ぐ効果が期待できます。また、組織の都合に応じて適材適所の人材配置もしやすくなるでしょう。
自前の社員で業務を遂行、会社の基盤を安定させるためにはジョブローテーションが有効です。
社員の適性を見極め、幅広い業務を遂行できる社員を増やすことにより、急な退職に対する人材補充がしやすくなるでしょう。
また、幹部社員もビジネスモデル全体のことを知っているため、内部事情をよく考慮したうえで経営判断を下せるでしょう。
従業員側のメリット
従業員側のメリットとしてさまざまな部署・職種を経験できることが挙げられます。
さまざまな部署・職種を経験することにより会社のビジネスモデル全体を詳しく理解できるため、幹部社員になった際、総合的な視点から業務を遂行できるようになるでしょう。
また、定期的な配置転換が実施される場合があるため、希望部署を申告しておけば転職せずとも働きたい職種で働ける可能性もあります。
キャリアパスを描きやすいという点もメリットといえます。
ひとつの会社で長く働きたい人にとってジョブローテーション制度は適しているといえるでしょう。
ジョブローテーション制度のデメリット
メリットが多数ある一方でジョブローテーション制度には次のようなデメリットがあります。
| 企業のデメリット | 従業員のデメリット |
|---|---|
| 特化した人材は育成しにくい | スペシャリストにはなれない |
| 給与体系を決めるのが難しい | 望まない部署に配属されるかもしれない |
| 定期的に配置転換しなければならない | 転職によるキャリア形成は難しい |
| 定型業務をマニュアル化しなければならない | - |
企業側のデメリットと従業員側のデメリットを説明します。
企業側のデメリット
ジョブローテーション制度では、人材を定期的に配置転換しなければならないので、標準的な業務マニュアル作成や研修などを実施しなければ業務品質が安定しません。
また、転職市場では職種ごとに給与相場が違うため、社内の給与制度を従業員の市場価値と矛盾しないように運用することも考慮する必要があります。
ジョブローテーションでは、企業に詳しい従業員は育成できますが、イノベーティブな人材を育成するのは困難です。業界の変化が激しく、新しいプロダクトやビジネスモデルが求められている場合は、不利になると考えられます。
従業員側のデメリット
ジョブローテーション制度は、ひとつの会社で長期的なキャリアパスを形成するのには向いていますが、転職を前提としたキャリアプランには向いていません。
定期的に部署・職種を異動するので、会社の業務には特化しますが、特定の業務に特化したスペシャリストになるのは難しいといえます。
特定の業務に関するスペシャリストの方が、転職市場での価値は高くなる傾向にあります。そのため、転職を前提にキャリアパスを考えている場合はデメリットになるでしょう。
また、本人の意向が人材配置に必ずしも反映されるとは限らないため、場合によっては不本意な部署や職種に配置される可能性もあります。
ジョブローテーション制度に向いている企業
ジョブローテーション制度に向いている企業は、次の3つの特徴があります。
- 各業務が一連の流れで実施できる企業
- 企業文化を浸透させたい企業
- 従業員数の多いグループ企業
それぞれの特徴について詳しく説明します。
各業務が一連の流れで実施できる企業
製造業のように各部署で実施する業務の関連性が高く、作業が一連でつながっている企業はジョブローテーションに向いています。各々が工程全体を理解し、円滑に業務をまわせるようになるでしょう。
また、商品開発の担当者が顧客の反応や実際の販売現場を理解するために、営業部に部署異動するローテーションも効果を実感しやすいでしょう。
一方で、通販事業と介護事業のようにまったく業務的に関連のない部署間でのローテーションは、業務全体を理解する観点からジョブローテーションの必要はありません。
企業文化を浸透させたい企業
M&Aにより、違うバックグラウンドを持った社員間のコミュニケーションに問題が生じている企業や、店舗・支社が多い企業では、ローテーションすることによって、企業文化を浸透させやすくなります。
異なる事業であっても、ひとつの経営理念のもとに各事業が運営されているならば、あえて事業を超えたジョブローテーションを実行するのもいいでしょう。
従業員数の多いグループ企業
従業員の多い大企業では同等レベルの能力の従業員が多いため、異動させやすく業務効率の低下リスクが少ない傾向にあります。このため、ジョブローテーションによる長期的な人材育成が可能となるでしょう。
ジョブローテーション制度に向かない企業
ジョブローテーション制度に向かない企業の特徴には、次のようなものがあります。
- 少人数の中小企業やスタートアップ
- 専門的スキルが必要とされる企業
- 長期的なプロジェクトを実施する企業
それぞれの特徴について説明します。
少人数の中小企業やスタートアップ
少人数で運営している中小企業やスタートアップでは、ジョブローテーションにより、業務効率が低下したり、業務が立ち行かなくなったりするリスクが高くなります。
少人数であれば、社員間のコミュニケーションのために、ジョブローテーションを実施する意味もあまりないでしょう。
専門的スキルが必要とされる企業
社員に専門的なスキルが必要な企業が、ジョブローテーションを実施すると問題が生じる可能性が高いでしょう。
AI(人工知能)技術者やデータサイエンティスト、マーケターといった独自の高度なスキルを持った人材や、長い時間をかけて技術を習得した熟練工に対して、ローテーションすることは現実的ではありません。
長期的なプロジェクトを実施する企業
都市開発やインフラ構築といった長期的なプロジェクトを実行する企業も、短期的なジョブローテーションには向いていません。
とくにプロジェクトリーダーやコアメンバーをローテーションさせてしまうと、クライアントや関連企業との関係性が悪化してしまうリスクもあります。
このような企業がジョブローテーションを実施する際は、プロジェクト完了後のタイミングで慎重に実施するべきでしょう。
企業に合わせてジョブローテーションの導入を
ジョブローテーション制度には、会社の都合に合わせて人材を柔軟に配置できるメリットがある反面、スペシャリストを育成しにくい傾向にあります。
また、中小企業のように従業員が少ない場合は、配置転換による業務効率低下のリスクも大きいでしょう。
中小企業よりも大企業、各部署でスペシャリストが必要な企業よりも、業務同士の関連性を意識できる人材が必要な企業の方が、ジョブローテーションに向いていると考えられます。
グローバルに人材を雇用したい場合には、全社的な人事制度としてのジョブローテーションではなく、海外企業に見られる、ジョブ型雇用と社内公募の自主的ジョブローテーションへの移行も検討に値するでしょう。
スペシャリストを育成しにくいデメリットは、人材育成システムや人事管理システムなどを利用してカバーするとよいでしょう。
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