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ジョブローテーション制度とは?目的やメリット・デメリット、海外事例

最終更新日:(記事の情報は現在から675日前のものです)
ジョブローテーションとは、企業内でさまざまな部署や職種に、数か月から数年の頻度で定期的に従業員を異動させる人事制度のことです。ジョブローテーションの目的や背景、メリット・デメリット、企業による向き不向きと海外事例について紹介します。

ジョブローテーション制度とは

ジョブローテーション制度とは、社員の能力開発のために定期的に社内での異動や職種の変更を実施し、スキルや経験を習得するための人事制度のことを指します。

ジョブローテーションは、日本の大企業を中心に採用している制度で、企業に特化したゼネラリストを育成しやすい、企業文化を浸透させやすいといったメリットがあります。

ジョブローテーションの目的によって期間はさまざまで、1つの部署・職種で働く期間は半年から長くて数年と、企業の方針によって異なります。

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人事異動との違い

ジョブローテーション制度は、社員の人材育成のために行う中長期的な人事制度です。

一方で、人事異動は昇格・降格、解雇、配置転換といった、企業が欠員の補充や組織の活性化のために行う企業経営上の短期的な人事、という違いがあります。

ジョブローテーションの期間

ジョブローテーションの適切な期間は、目的によって異なります。

新入社員にどのような仕事があるのかを把握させる、顧客と接する営業や工場などの作業現場で働いて一度現場を経験しておく、といった新人研修のジョブローテーションであれば、数か月から半年程度、長くて1〜2年が目安です。

長期的な社内キャリアパス、幹部社員育成のためのジョブローテーションであれば、部署・職種での最低限の業務執行能力を身につけるために、1つの部署・職種につき数年は仕事をするべきだと考えられます。

いずれにしても、目的と社内の人材育成状況に応じて個別に期間を考えた方がいいでしょう。

ジョブローテーション制度の背景

ジョブローテーション制度は、主に終身雇用・年功序列をベースに組織を構築してきた日本企業の独特の人事制度だと言われています。背景には、日本企業の新卒一括採用を中心としたメンバーシップ型雇用という雇用方法があります。

メンバーシップ型雇用とは

従来の日本企業では、新卒で入社した企業で定年まで働く終身雇用制度が一般的でした。メンバーシップ型雇用では、実務経験やスキルのない新卒学生を、業務内容や勤務地などを限定せずに雇用します。

その後、ジョブローテーション制度によって長期的・計画的な配置転換を行い、幹部候補となるゼネラリスト人材を育成していったわけです。このためメンバーシップ型雇用は、人に仕事を合わせる雇用といわれます。

ITやデジタル技術のスペシャリスト人材が企業に求められる現在は、メンバーシップ型雇用を廃止してジョブ型雇用に移行する日本企業が増加しています。

ジョブ型雇用とは

ジョブ型雇用では、企業が人材を採用する際に、業務内容と範囲を職務記述書(ジョブディスクリプション)によって明確に規定し、雇用契約を結びます。ジョブ型雇用は、欧米を中心に世界的に導入されている雇用方法で、主に中途採用でスペシャリストを雇用し、その成果に対して評価します。

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ジョブローテーションの目的

ジョブローテーション制度には次のような目的があります。

  • 企業の全体像の把握
  • 社員のモチベーション維持
  • 部署間の連携をスムーズにする
  • 幹部候補の人材育成

企業の全体像の把握

社員がジョブローテーションにより、一つの部署や職務だけでなく、さまざまな部署を経験することで、企業の全体像が把握できるようになります。

事業の仕組みや本質的なKPIについての理解が深まり、新規事業開発やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進のための課題など、長期的な戦略が描けるようになるかもしれません。

新人育成時のジョブローテーションでは、新入社員に営業や工場などを体験してもらい、現場の現実やチームワークを学んでもらう企業も多くあります。入社後に実務を通して企業全体を把握してもらったあとで、本人の適性と希望を考慮して正式な配属を決めていきます。

新入社員は、こうしたジョブローテーションを通して企業文化になじめることで、配属先でも現場を大切にした業務フローに従事してくれることが期待できます。

社員のモチベーション維持

一つの部署だけに長い年月所属していると、業務に新鮮味が感じられなくなり、社員のモチベーションが低下してしまうことがあります。

ジョブローテーションで違う部署に異動することで、新しいスキル開発や提案が可能になり、組織がフレッシュな体制になることが期待できます。自身のモチベーションにもとづいた社員の成長は、企業にとっても成長の原動力となります。

部署間の連携をスムーズにする

部署の人材が固定されてしまうと、部署間の関係性も硬直してしまいがちです。ジョブローテーションで部署間のコミュニケーションが取りやすくなれば、柔軟で迅速な連携が可能になり、摩擦やトラブルが減り、企業の経営効率が高まります。

幹部候補の人材育成

企業の幹部候補には、ジョブローテーションでさまざまな部署を経験してもらい、企業の全体像を正確に把握してもらう必要があります。どの部署でも高いパフォーマンスを発揮できる社員は、中間管理職として昇進していくでしょう。

また幹部候補の社員は、ジョブローテーションによる異なる部署での勤務経験により、社内外で幅広いネットワークを構築できます。経営幹部となった際には、社内からの多くの支持に加え、ネットワークを外部企業との提携といった、企業にとっての重要なプロジェクトに生かせるかもしれません。

ジョブローテーション制度のメリット

ジョブローテーション制度を導入することによるメリットは次のとおりです。

企業のメリット 従業員のメリット
部署間の連携が深まる 会社の全体像が見える
会社の都合に応じて人材配置しやすい ゼネラリスト人材になれる
幅広い業務を遂行できる社員が増える さまざまな部署・職種が経験できる
社員の適性を見極めやすい 望んだ業務・部署に配属されるかもしれない
業務の属人化を防ぐ -

企業側のメリットと従業員側のメリットにわけて説明します。

企業側のメリット

企業側がジョブローテーション制度を導入するメリットとして、部署間の連携が深まり、業務の属人化を防ぐ効果が期待できます。また、組織の都合に応じて適材適所の人材配置もしやすくなります。

自前の社員で業務を遂行、会社の基盤を安定させるためにはジョブローテーションが有効です。社員の適性を見極め、幅広い業務を遂行できる社員を増やすことにより、急な退職に対する人材補充がしやすくなります。

また、幹部社員もビジネスモデル全体のことを知っているので、内部事情をよく考慮したうえで経営判断を下せるでしょう。

従業員側のメリット

従業員側のメリットとしてさまざまな部署・職種を経験できることが挙げられます。さまざまな部署・職種を経験することにより会社のビジネスモデル全体を詳しく理解できるので、幹部社員になった際の業務執行が総合的な視点から行えます。

また、定期的な配置転換が行われる場合があるので、希望部署を申告しておけば転職せずとも働きたい職種で働ける可能性もあります。

1つの会社で長く働きたい人にとってジョブローテーション制度は適しているといえるでしょう。

ジョブローテーション制度のデメリット

メリットが多数ある一方でジョブローテーション制度には次のようなデメリットがあります。

企業のデメリット 従業員のデメリット
特化した人材は育成しにくい スペシャリストにはなれない
給与体系を決めるのが難しい 望まない部署に配属されるかもしれない
定期的に配置転換をしなければならない 転職によるキャリア形成は難しい
定型業務をマニュアル化しなければならない -

企業側のデメリットと従業員側のデメリットを説明します。

企業側のデメリット

ジョブローテーション制度では、人材を定期的に配置転換しなければならないので、標準的な業務マニュアル作成や研修などを実施しなければ業務品質が安定しません。

また、転職市場では職種ごとに給与相場が違うため、社内の給与制度を従業員の市場価値と矛盾しないように運用することも考慮する必要があります。

ジョブローテーションでは、企業に詳しい従業員は育成できますが、イノベーティブな人材を育成するのは困難です。業界の変化が激しく、新しいプロダクトやビジネスモデルが求められている場合は、不利になると考えられます。

従業員側のデメリット

ジョブローテーション制度は、1つの会社で長期的なキャリアパスを形成するのには向いていますが、転職を前提としたキャリアプランには向いていません。

定期的に部署・職種を異動するので、会社の業務には特化しますが、特定の業務に特化したスペシャリストになるのは難しいです。

特定の業務に関するスペシャリストの方が、転職市場での価値は高くなるので、転職を前提にキャリアパスを考えている場合はデメリットになります。

また、本人の意向が人材配置に必ずしも反映されるとは限らないため、場合によっては不本意な部署や職種に配置される可能性もあります。

ジョブローテーション制度に向いている企業

ジョブローテーション制度に向いている企業は、次の3つの特徴があります。

  • 各業務が一連の流れで行える企業
  • 企業文化を浸透させたい企業
  • 従業員数の多いグループ企業

それぞれの特徴について詳しく説明します。

各業務が一連の流れで行える企業

製造業のように各部署で行う業務の関連性が高く、作業が一連でつながっている企業はジョブローテーションに向いています。従業員が工程全体を理解し、円滑に業務をまわせるようになります。

また、商品開発の担当者が顧客の反応や実際の販売現場を理解するために、営業部に部署異動するといったローテーションも効果を実感しやすいです。

一方で、通販事業と介護事業のようにまったく業務的に関連のない部署間でのローテーションは、業務全体を理解する観点からジョブローテーションを行う必要はないでしょう。

企業文化を浸透させたい企業

M&Aにより、違うバックグラウンドを持った社員間のコミュニケーションに問題が生じている企業や、店舗・支社が多い企業では、従業員をローテーションすることによって、企業文化を浸透させやすくなります。

異なる事業であっても、1つの経営理念のもとに各事業が運営されているならば、あえて事業を超えたジョブローテーションを行うのもいいでしょう。

従業員数の多いグループ企業

従業員の多い大企業では同等レベルの能力の従業員が多いため、異動させやすく業務効率の低下リスクが少ない傾向にあります。このため、ジョブローテーションによる長期的な人材育成には向いています。

ジョブローテーション制度に向かない企業

ジョブローテーション制度に向かない企業の特徴には、次のようなものがあります。

  • 少人数の中小企業やスタートアップ
  • 専門的スキルが必要とされる企業
  • 長期的なプロジェクトを行う企業

それぞれの特徴について説明します。

少人数の中小企業やスタートアップ

少人数で運営している中小企業やスタートアップでは、ジョブローテーションを行うことにより、業務効率が低下したり、業務が立ち行かなくなったりするリスクが高くなります。少人数であれば、社員間のコミュニケーションのために、ジョブローテーションを行う意味もあまりないでしょう。

専門的スキルが必要とされる企業

社員に専門的なスキルが必要な企業が、ジョブローテーションを実施すると問題が生じる可能性が高いでしょう。AI(人工知能)技術者やデータサイエンティスト、マーケターといった独自の高度なスキルを持った人材や、長い時間をかけて技術を習得した熟練工に対して、ローテーションを行うことは現実的ではありません。

長期的なプロジェクトを行う企業

都市開発やインフラ構築といった長期的なプロジェクトを行う企業も、短期的なジョブローテーションには向いていません。とくにプロジェクトリーダーやコアメンバーをローテーションさせてしまうと、クライアントや関連企業との関係性が悪化してしまうリスクもあります。

このような企業がジョブローテーションを行う際は、プロジェクト完了後のタイミングで慎重に実施するべきでしょう。

ジョブローテーションの海外事例

海外企業でもジョブローテーションを実施している企業はあります。ただし、日本のように全社的で定期的に行うジョブローテーション制度ではなく、社内公募による自主的ジョブローテーションが一般的です。

また、米国では大企業を中心に、新卒採用時のジョブローテーションを新人研修として行っている企業も少なくありません。

Amazonのジョブローテーションの例

グローバル小売企業のAmazonには、他部門の職務を体験できるジョブローテーションプログラムがあります。社員が職務を主体的に選ぶジョブローテーションで、専門スキルをさらに磨いたり、ゼネラルマネージャーを志向して他の職種を経験したりできます。

AmazonのCEOであるジェフ・ベゾス氏は2021年、ジョブローテーションプログラムの一環として、身体を動かす必要のある仕事において、従業員をシャッフルするアルゴリズムを導入する計画を発表しました。具体的には、異なる筋肉や腱を使用する仕事間で従業員同士を交代させることで、同じ身体部位を使った反復動作を減らす自動人員配置スケジュールを開発しています。

これは、問題視されている同社の従業員の労働環境を改善するための取り組みで、ベゾス氏は「私は地球最高の雇用主になり、Amazonが地球で最も安全な職場になることを目指します」と宣言しています。

企業に合わせてジョブローテーションの導入を

ジョブローテーション制度には、会社の都合に合わせて人材を柔軟に配置できるメリットがある反面、スペシャリストを育成しにくい傾向にあります。また、中小企業のように従業員が少ない場合は、配置転換による業務効率低下のリスクも大きいでしょう。

中小企業よりも大企業、各部署でスペシャリストが必要な企業よりも、業務同士の関連性を意識できる人材が必要な企業の方が、ジョブローテーションに向いていると考えられます。

グローバルに人材を雇用したい場合には、全社的な人事制度としてのジョブローテーションではなく、海外企業に見られる、ジョブ型雇用と社内公募の自主的ジョブローテーションへの移行も検討に値するでしょう。

スペシャリストを育成しにくいというデメリットは、人材育成システムや人事管理システムなどを利用してカバーするとよいでしょう。

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