22年1月の電子帳簿保存法改正、認知に課題 - 電子保存の義務化も
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電子帳簿保存法の改正まで4カ月
9月1日にデジタル庁が発足し、日本でも国や自治体のデジタル化が急速に進展していきそうです。今まで省庁や自治体ごとにバラバラだったITシステムが統一され、公的な手続きのデジタル化も容易になることが期待されます。もっとも、デジタル庁の取り組みが形になって、恩恵がもたらされるのはまだ先です。
デジタル庁とは別に、公的手続きにおけるIT活用は着実に進んでいます。企業が大きく影響を受けるであろう直近の動きとしては、2022年1月1日に施行される「改正・電子帳簿保存法」でしょう。
今回の改正には、ペーパーレス化を進めやすくする要件が多く含まれています。税務申告に関係する文書や帳簿、日々の事業活動で発生する請求書のような書類について、電子的に保存(電磁的記録)する際の手続きや条件が大きく変化するのです。
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改正内容の認知に課題
電子帳簿保存法が改正されるとなると、企業は対応しなければなりません。ところが、具体的な内容は、あまり認知されていないようです。
改正の情報不足が9割以上も
請求書受領サービスなどを手がけるSansanが、「電子帳簿保存法に関する意識調査」を実施。企業などで請求書を扱う業務に携わっている人が改正を知っているかどうかや、準備できているかなどを調査しました。
電子帳簿保存法が2022年1月に改正されると知っているか尋ねたところ、「(改正を知っていて)改正内容まで理解している」人は8.8%にとどまりました。改正を知っているものの「内容は理解していない」人は18.8%です。そして、72.4%もの人が「知らない」と回答しました。
施行まで4カ月を切ったにもかかわらず、9割以上の人が電子帳簿保存法の改正に関する十分な情報を持っていない状態だったのです。
対応済みは5%未満
改正への対応も、進捗が芳しくありません。
電子帳簿保存法の改正について「改正内容まで理解している」または「知っているが内容は理解していない」と答えた人(全体の27.6%)を対象とし、改正への対応状況を質問しました。その結果、「対応している」は17.8%で、全体の4.9%しかいませんでした。「対応に動いている」は42.8%で、全体に対する割合は11.8%になります。改正を認識している人に限っても、対応は進んでいません。
一方、「対応に動いていない」は24.6%(全体の6.8%)、「わからない」は14.9%(同4.1%)でした。全体的にみると、企業などで請求書を処理している人のなかでも、電子帳簿保存法の改正に向けた準備はほとんどできていない現状です。
今回の改正では一部帳票の電子保存が義務化されるため、対応システムの利用や、処理フロー変更を検討すべき企業もあるはずです。それにも関わらず対応が進んでいない状況が浮き彫りとなっています。
>2021年11月、“電子保存義務化”に対して国税庁が見解を表明しています
2022年1月施行の改正内容は?
電子帳簿保存法が改正されることで、帳簿書類の電子データ保存に関する要件が緩和されます。国税庁の公開している情報(その1、その2)を参考に、改正のポイントを整理しましょう。
現場の電子保存がラクになる
まず、紙の請求書などをスキャナーで読み取って電子保存する場合、従来は事前に税務署長から承認を得る必要がありました。今回の改正より、この事前承認制度は廃止されます。要件を満たしている会計システムなどを使っていれば、申請することなく電子保存できます。
また、電子保存した日時などを証明するため付与するタイムスタンプについても、要件が緩和されました。これまで書類受領から3日以内に電子化してタイムスタンプを付与しなければならなかったのに対し、改正後は最長約2カ月、おおむね7営業日以内へと期限が延長されたのです。
受領してから3日では処理が難しく電子化を諦めていた企業でも、これだけの猶予が与えられれば対応可能でしょう。しかも、スキャナーで読み取る際、受領者などの署名も不要になって、さらに手間が省けます。
しかも、電子保存したデータに対する訂正や削除が操作ログとして記録される会計システムなどを使っている場合は、タイムスタンプ付与を省略できる、という要件緩和も実施されます。
そのほかにも、保存した電子データを検索する際、「取引年月日」「その他の日付」「取引金額」「取引先」だけ指定できればよい、という改正もあります。より複雑な条件で検索可能にしておく必要があった従来に比べ、対応可能なシステムが多くなるはずです。
電子保存が義務化される請求書も
改正で緩和された要件もあれば、厳しくなった要件もあります。
電子取引に関する請求書などのデータは、電子保存が義務化されました。これまではこの種のデータも印刷した紙の書類として保存しても構わなかったのですが、今回の改正により電子データのまま保存する必要が生じたのです。
たとえば、PDFファイルの形式で受け取った領収書や請求書は、そのまま電子データで保存しなければなりません。電子保存を推進しようという、政府の姿勢が強く表れた改正内容です。
紙と電子データの一括管理が必要に
2022年1月に変わる部分はこれだけでありませんが、基本的には帳簿類の電子保存が実施しやすくなります。今まで紙の書類で経理業務を行っていた企業にとっては、ペーパーレス化に踏み切る良い機会でないでしょうか。
逆に、電子取引で受領した電子データの電子保存が義務化されるため、紙中心の処理に固執していた組織はデジタル化を強いられます。仮に、領収書や請求書を電子データで受け取った人が印刷して経理部門に提出していたような組織では、処理の流れを変える必要があります。
とはいえ、紙の書類もまだ一掃できる状態ではありません。スキャナーで読み取った書類と電子データを一括管理して、経理業務や税務申告などをスムーズに済ませられるシステムの導入を検討する必要がありそうです。